──近代社会になってからなのですか。
女性がズボンをはいたりサッカーをしたりしてもおかしくないが、男性がスカートをはいたりシンクロナイズドスイミングをしたりすると、すごい違和感がある。その感情と実は結び付いている。これは近代社会の男性の生き方と女性の生き方が、らしさの規範によって違うように身に付いてしまっているところからきている。
表面的にいろいろ見られることの裏には、近代社会の成立の物語がある。近代社会が成立し、職業が自由化されて、能力主義が浸透した以降の「らしさの規範」なのだ。家族においてはいわゆる仕事と家事、有償労働と無償労働という2つの労働が出てきた背景がある。
──歴史のあることで、新しい現象ではない……。
パラサイト・シングルや希望格差、婚活は、新しく起こった現象を見いだしたもの。男女の非対称性は近代社会の基本的な構造であり、なかなか変わらない。けっこうタブーのようなものが含まれる。たとえば高学歴・高収入の女性が好きになるのは自分よりもっと高学歴・高収入の男性なのだ。このことをオープンにしたくないことがネックになって社会の変化が進まない面もある。
――人の感情の役割も大きい。
感情社会学の研究を深めることによって、自分ですべてをコントロールできないことがよくわかった。近代社会はとかく自分で自分をコントロールできることを前提にして、物事を決める。だが、感情を研究していると、自分の理性では抑えられないものがあることがわかる。どういう人を好きになるか、どういう人が気持ち悪いか。感情とのつながりを明らかにし、そこに切り込まないと、社会は変わらない。
日本と欧米の違い
――好みが人や社会を動かすのですね。
日本社会では家庭的な女性のほうが好かれる。料理が得意、家事が好きという女性がもてはやされ、逆にそれが女性のほうのアピールにもなる。男性は収入が高いほうがいいということもなかなか変わらない。
――欧米とは違う。
中国でも、男性ばかりでなく女性も収入で選ばれるそうだ。収入の高い女性のほうがモテる。家事好きはメイドを雇えばいいから別にアピールにならないというのだ。
日本では女性が家事を進んでするのがアピールになり、結婚しやすくなる。しかも、イクメンを育成しようとか性別役割分業を直していこうとか、結婚後のことしか言わない。自分より忙しい人と好んで結婚したのに家事を手伝えと。そういう人と結婚したのだからしょうがないはずなのだが。
この本はあえて身もふたもない日本の現実を書いたといえるかもしれない。
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