それでは日本も持てばいいではないか、と読者は思うかもしれない。しかし、日本がこうした長距離爆撃機を持つことは想定できない。なぜならば、憲法9条の下で、性能上もっぱら他国の国土を壊滅的に破壊するような攻撃的兵器を日本は持てないからだ。自衛隊は「専守防衛」の思想のもと、攻撃されないための防衛的な兵器のみを所有しているということになる。
こう考えていくと、米軍のアジア太平洋地域におけるプレゼンスは、日本にとっては是が非でも必要な傘ということになる。
戦後初めての試練のなかにある
第二次世界大戦では、アジアの覇権国になろうとした日本を、アメリカは石油の禁輸などの手段をつかって抑止しようとしたが、結局は失敗し、戦争になった。その後のアジアで、強力な海軍力をもった国は、中国が2000年代に南シナ海や東シナ海に進出するようになるまでは、出現しなかった。
その意味で、現在アジア地域は、戦後初めてアメリカ以外の国が覇権国たるべく拡張してきたその試練をうけている。
本書が記す、フィリピンが領有権を主張しているスカボロー礁を失った経緯に愕然としたかたもいるのではないか。2012年4月に「中国漁船団」の侵入によって始まったこの奪取劇。中国は、フィリピン製品の輸入制限や、フィリピンへの事実上の渡航制限によって中国経済に依存していたフィリピンを追い込む。アメリカの仲介で、2012年6月に両国は当該地域から撤退することが決まったにもかかわらず、中国はそのまま居座り続け、礁のコントロールを握ることになった。
本書『米中もし戦わば』は、米国、中国のみならず、ベトナム、フィリピン、台湾、韓国、北朝鮮、そして日本といった国々のパワーバランスのなか、中国が何を狙い、何が同盟国の側に足りないのかを、わかりやすく書いている。
沖縄の基地問題や集団的自衛権の問題も、こうした大きなコンテクストのなかで考えていくと、その糸口が見つかるかもしれない。
アジア地域へのアメリカ軍のプレゼンスを軽視する候補が大統領になった今こそ、日本人に読まれる書というべきだろう。
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