米国大統領選には”不思議なルール”がある。過去50年間、ホワイトハウスの主が相手側の政党に奪われる時、必ず繰り返されてきた。9月1日と投票日の間に、トウモロコシ価格が上昇すると共和党、下落すると民主党の大統領候補者が勝つ。1960年のジョン・ケネディ以降、7代続いた鉄則は、今回も守られた。シカゴのトウモロコシ相場は14%値上がりし、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利したのだ。
このルールは8月に米国の農業雑誌のコラムニストが遊び心で指摘したものだ。実際に米国で農家人口が1%に過ぎない中、トウモロコシの価格だけが大統領を決めるのはあり得ない。経済成長から取り残された人たちの不満が津波のようにヒラリー・クリントン候補を吹き飛ばしたのが正しい分析だろう。しかし、米国の農家の支持は、中西部や南部の州を共和党色の真っ赤に染める、原動力の一つになった。
9月半ば、南部で保守層の地盤となっているアーカンソー州の稲作農家を訪ね回り、大統領選挙の話を聞いた。
農薬や食品表示で圧迫してきた米民主党
20年来の知己である農家クリス・イザベルさん(60)は、米の収穫機の中で、「今回の大統領選挙は、これまで経験したほどのない異例ずくめ。投票先をこんなに悩むのは初めて。周りの農家も同じだ」と、困惑したように語った。南部の国境にメキシコ負担で巨大な壁を造る。イスラム教徒や女性を蔑視する。地域の農家が伝統的に後押ししてきた共和党候補のトランプ氏が、珍妙な発言を繰り出す度に心は揺れ動くものの、「ヒラリー氏には絶対に投票しない」と言い切った。
農村は伝統的に共和党支持者が多い。民主党が労組や都市の環境団体の支援を受けて、農地からの排水や農薬使用、家畜の飼養、食品表示などの基準を厳しくし、農業経営を圧迫してきたという思いが強いからだ。特に民主党のオバマ政権になって、「農村を見捨てて都市寄りの政策を強めた」(イザベルさん)という不満が地域にうっ積していたという。
イザベルさんの話を聞くと、トランプ個人への支持と言うよりも、現政権への反発が、農村の人たちを反クリントンへと突き動かしたように見える。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら