最大の問題は、環太平洋経済連携協定(TPP)に代表される、通商政策の行方だろう。選挙戦でトランプ氏は反・自由貿易を唱え、多くの労働者層を引きつけた。TPPについては、政権移行直後の「脱退」を明言した。一方で、米国は農業生産の2割を輸出し、「新たな海外市場の開拓にはTPPのような枠組みが必要」というのが、AFBFのような主要な農業団体の立場であり、トランプ氏の姿勢とは逆を向く。
もっとも、トランプ氏と一緒に政策を進める議会の共和党や農政顧問団の多くは自由貿易を重視し、農業団体の立場に近い。前述のワイアント社長は「トランプ氏は今のTPPが不公平だと考えている。米国にとってもっと『公平』な内容に書き直すように再交渉をするだろう。それは(1994年に発効した)北米自由貿易協定(NAFTA)でも同じだ」と語る。単純に保護貿易主義に走るのではなく、TPPなどの通商交渉をガラガラポンでやり直す可能性が強いと読んでいる。TPPが12カ国の困難な交渉で合意したとは言っても、確かに彼のキャラクターならちゃぶ台返しをやりかねない。2国間の自由貿易協定に注力するという見方も有力だ。
TPPばかりでない。もう一つの問題は、厳格な移民政策だ。
移民の労働力に頼る酪農・園芸
米国の酪農や園芸農家の多くは、現場作業の多くを、メキシコなどからの不法移民の労働力に依存している。選挙戦でトランプ氏が主張していたように、彼らを一挙に送り返すようなことになれば、経営は立ちゆかない。
ワイアント社長は「農家が先行きの雇用に不安を持っているのは確か。しかし、トランプ氏は選挙戦の途中や当選後に、移民政策で柔軟な立場にシフトしている」と、移民政策の分野でも農家の懸念を配慮して、軟着陸の方向を模索するという見方だ。
2017年1月、大半の予想を裏切って誕生する、米国のトランプ新大統領。選挙戦で熱烈な支持に回った農家の気持ちは、現状変革への期待と、ころころ変わる言動への不安が入り交じっているようにみえる。
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