海上自衛隊は、保有する潜水艦を16隻から22隻へと増加させつつある。より多くの潜水艦を南西海域で運用することにより、中国の潜水艦や水上艦艇などに関する情報収集や偵察監視能力が向上することが期待される。また有事においては、南西海域での海上優勢を確保するうえで、これらの潜水艦が重要な役割を担うことになろう。海上自衛隊は、高性能のレーダーを装備し、多数の敵戦闘機や対艦ミサイルなどに同時に対応できる高い防空能力を有しているイージス艦の改修も進めている。特に弾道ミサイル防衛能力の強化が図られており、日本本土に対する弾道ミサイル攻撃への対処能力の向上につながるだろう。
拡張する中国に対して、米国は、アジア太平洋地域における同盟国との防衛協力を強化している。その結果、日米の防衛協力はこの数年で顕著に進展している。たとえば、東京都の府中にあった航空自衛隊の航空総隊司令部を、在日米空軍の司令部がある横田に、2012年に移転したのもそのひとつだ。陸上自衛隊で有事における初動対処を担うことになる中央即応集団も、その司令部を、在日米陸軍司令部がある座間キャンプへ移転した。米軍と自衛隊が、主要な部隊の司令部を同じ場所に置くことで、作戦時における相互の連携強化が目指されている。
本書は、米軍が日本や韓国などアジア地域で運用する基地が固定されているために、中国のミサイル攻撃に脆弱である旨を指摘している。これは鋭い指摘で、PAC3などの地対空ミサイルを配備し、迎撃しても、異なる方向から多数のミサイルが飛来した場合、そのすべてを打ち落とすことは難しい。したがって、そうしたミサイルが着弾しても基地が稼働できるよう、主要な施設や装備を非常に厚いコンクリートで保護することや、破壊された滑走路などの施設を早急に復旧させる能力の向上といった、「抗たん化」の推進が必要になっている。
日本にとっては死活問題のオフショア・コントロール
本書の中ではもうひとつの戦略思想の転換が提示されている。すなわち空母主体の現在の米海軍の態勢を改め、潜水艦を主体にし、第一列島線の海峡(チョークポイント)で中国を封鎖するという「オフショア・コントロール」の考えである。
この潜水艦への戦略移行は、たしかにアメリカにとっては安上がりな解決かもしれないが、第一列島線上に位置する日本にとっては死活問題になる。これは第一列島線で、石油などの輸入を阻止することで、中国を干上がらせるという発想だが、そうした事態まで中国を追い込むには相当の時間がかかる。その間に中国は、封鎖の突破を目指して、本土で無傷のまま温存されているミサイルなどの兵器を用いて、第一列島線に存在する敵の軍事基地や政経中枢への攻撃を行うことが想定される。
また、中国領内に進入できる長距離爆撃機を米側が持つことが、事態の安定につながるという本書の主張の妥当性はどうだろうか?
中国の内陸部にある軍事的なアセットを着実に破壊できる能力を持つことによって、中国による挑発的な行動、挑戦的な行動を抑え込む。それが「エアシーバトル」の抑止の考え方だ。そのためには長距離を高速で飛行し、敵のレーダーから探知されにくいステルス性能を備え、中国の内陸部も攻撃できる爆撃機を持つというのは合理的な結論である。実際、ステルス性の高い長距離爆撃機をアメリカは保有しており、それが中国本土をたたくことができるという事実が、抑止力の一部となっているのである。
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