黒田総裁はことあるごとに、物価上昇が重要であると力説しています。しかしながら、貸家建設の増加をマイナス金利の効果と主張するのは、将来の物価目標とも明らかに矛盾しています。なぜなら、将来の需給悪化により家賃が大幅に下落すれば、物価全体を押し下げることになるからです。モノやサービスの物価動向を示す消費者物価指数では、家賃下落の影響は決して小さくはありません。持ち家でも家賃に相当する額を毎月支払っているとみなしている帰属家賃も含めると、消費者物価指数全体の2割程度を占めているのです。
貸家建設は将来の不良債権増加をもたらす懸念
先進国では全般的に、家計支出に占める家賃の割合が高いので、帰属家賃という考え方が採用されています。当然のことながら、帰属家賃は実際の貸家の家賃から推計されているので、過剰な貸家建設の影響が将来の需給関係を著しく悪化させれば、物価全体への下落圧力は今まで以上に大きくなっていくでしょう。マイナス金利政策が後押ししている貸家建設バブルが、黒田総裁の言う効果とは真逆の結果をもたらすという皮肉な運命が待ち受けているというわけです。
そうはいっても、日本では物価上昇率の算定に占める帰属家賃の割合は、先進国のなかでは必ずしも高いほうではありません。米国では帰属家賃の割合が3割程度を占めているのと比べると、日本では先に述べたように2割程度に過ぎないのです。
おまけに、米国では人口増加により帰属家賃が2%を上回る上昇を持続しているため、物価全体を引き上げる浮揚装置のような役割を果たしています。人口が減少する日本では帰属家賃がまったく上昇していない状況と比較すると、日本が米国並みに2%の物価上昇を目指すのが、いかに現実離れしているのか理解することができるはずなのです。
マイナス金利導入に伴う超低金利の温存は、欧州での先例を見ても明らかなように、投資マネーを必要以上に金融商品や不動産などに向かわせ、それらの需給関係を大きくゆがめる結果にもつながっています。実体経済の状況と将来の需給関係を無視して、金融商品や不動産などへのマネー流入が行き過ぎることは、短期的に見れば資産価値の向上やGDPの増額に寄与することができたとしても、長期的に見れば価格の長期低迷や不良債権の増加をもたらす可能性が高いと危惧するほうが正しいといえるでしょう。
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