習近平政権の「金融強国」路線に沿って、中国が再び人民元の国際化へかじを切ろうとしている。国境を越えた取引への規制を緩和しようとした途端、資本の流出を招いた失敗から約10年。「第15次5カ年計画(2026~30年)」では、これまで表記してきた「慎重に進める」との文言が消えた。積極姿勢に転じた狙いは何か。人民元の現在地を確認し、その行方を考える。
トランプ米政権のイランへの攻撃直後、世界の市場で米ドルが買われた。投資家は有事の際、手元の流動性を確保するため、飛び抜けた軍事力を持つアメリカの通貨ドルを安全な逃避先として選ぶ。いわば「有事のドル買い」は健在だった。
ロシアがウクライナを侵攻した22年以降、対ロ制裁で米ドルを使わせなくした「通貨の武器化」を警戒して、各国の中央銀行が確保する外貨準備ですら、米ドルを含む各国通貨ではなく金を買う動きが目立っていた。しかし、いざとなったら金すら売られ、買われたのは米ドルだった。
英ポンドから米ドルへの移行には半世紀以上を要した
アメリカが持つ世界一の経済規模と軍事力、金融市場の厚みと金融機関の競争力などを背景に、米ドルは他の通貨に比べて決済や外貨準備、金融資産などで利用されている割合が突出している。多くの専門家の間では、「基軸通貨としての米ドルの存在は予見しうる将来、揺るがない」(中尾武彦・元アジア開発銀行総裁)とする見方が一般的だ。
通貨はいったん使われ始めると他の通貨に転換するにはコストもかかるため、慣性が強く働く。英ポンドから米ドルへの基軸通貨の移行にも、経済規模の逆転後、半世紀以上の時間を要した。米ドルが世界経済のインフラとして使われてきた実績は、そう簡単には覆らないだろう。


人民元は、米ドルはもちろん、ユーロの足元にも及ばない。とりわけ長期保有が前提の外貨準備の少なさについては、中国政府自身も「人民元は安定、安全な資産としてまだ欠陥がある」(周小川・元中国人民銀行総裁)と自覚している。
何より、中国政府は国内経済の混乱を恐れて、国際通貨として不可欠な国境を越えた資本取引の完全な自由化に踏み切る覚悟はない。中国人民銀行で通貨政策委員を務めた経験を持つ研究者の一人は「富裕層はさまざまに資金を持ち出して国外で不動産などを買っている。政府は自由化すれば資本逃避が大規模に起こりうることを恐れている」と明かす。
第15次5カ年計画は「資本項目の開放レベルを向上させ、自主管理可能な人民元越境決済システムを構築する」方針にとどめている。あくまでも、中国政府が手綱を握った状態で、貿易や投資の実需を念頭に置いた「国際化」だ。投機を含めて国際市場で自由に取引できない通貨は、投資家からみれば魅力に欠ける。
では、中国政府が唱える人民元の「国際化」とは何か。






















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