鈴木宗男氏「北方領土への誤解が多すぎる」

安倍・プーチン1215長門会談へ大きな期待

有馬:ところが、ソ連が崩壊しロシアになったことで、話が変わってくるわけですね。

鈴木:1991年4月、ソ連時代の最後の指導者だったゴルバチョフ大統領と海部首相の間で「北方領土4島を話し合いで解決する」と変化していましたが、同年にソ連は崩壊します。ソ連は、自由と民主のロシアになり、エリツィン氏が大統領になります。彼は「戦勝国、敗戦国という枠組みにとらわれず、法と正義に基づいて話し合いで解決する」と言いました。

外務省はエリツィン大統領登場で対応を事実上変えた

ここで大事なことは、日本政府も、1991年10月以降は「4島一括返還の旗」を降ろしたことです。つまり、「ロシアが4島の帰属さえ認めれば、その返還時期や条件については柔軟に対応する」と事実上、対応を変えたのです。この事実は一部では報道されていますが、外務省が政治家や国民に明確に伝えていないため、さまざまな誤解が生じているのです。

その後、1993年10月、エリツィン大統領は細川首相と会談した際には国会でシベリア抑留を謝罪。北方領土4島の名前を列挙して「4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という東京宣言に署名するなど、旧ソ連時代とはまったく違った姿勢で臨んできました。

有馬 晴海(ありま はるみ)/政治評論家。1958年、長崎県佐世保市生まれ。立教大学経済学部卒。リクルート社勤務などを経て、国会議員秘書となる。1996年より評論家として独立、政界に豊富な人脈を持ち、長年にわたる永田町取材の経験に基づく、優れた分析力と歯切れのよさには定評。政策立案能力のある国会議員と意見交換しながら政治問題に取り組む一方、政治の勉強会「隗始(かいし)塾」を主宰、国民にわかりやすい政治を実践

さらに、1997年と98年には、橋本首相とエリツィン大統領とがそれぞれロシアのクラスノヤルスク、川奈(静岡県伊東市)で会談を行い、1997年には「2000年までの平和条約締結に向けて全力を尽くす」と決定。1998年には非公式に「北方4島の北側で両国の国境を画定し、当面はロシアによる4島の施政権を認める」という「川奈提案」も行いましたが、ロシア側が拒否しました。

有馬:このあと2000年にプーチン大統領が登場したことで、どう変わったのでしょうか。鈴木さんも、プーチン氏に特使として会うなど、交渉には深くかかわっています。またその後は、いろいろ大変なことになりました。

鈴木:話はここからが本番です。2000年の3月に当選したプーチン大統領(就任5月)は、1960年の安保条約改定以後のソ連・ロシアの首脳の中で、1956年の日ソ共同宣言の有効性を認めてくれた初めての最高首脳です。逆に言えば、日ロ双方にとって、国境画定の議論や領土問題は法律的に裏付けられているものは日ソ共同宣言だけという立場を明確にしました。私は小渕内閣の時に当選直後のプーチン氏と会った経験がありますし、森次期首相とプーチン氏との会談をセットしたこともあるからはっきりといえますが、プーチン大統領は約束を守る政治家です。また法律の専門家でもあります。

プーチン大統領は2000年の9月に日本にやって来ると、日ソ共同宣言の存在を認めたうえで、「今回は記者会見だけ。文書にするのは次の首脳会談で」といい、そのとおり2001年の3月25日に文書にしてくれました。これが森首相とのイルクーツク宣言です(日ソ共同宣言を、交渉の出発点と位置付けた宣言)。私に言わせれば、日本がもっとも北方領土に近づいた日でした。

ではイルクーツクでの首脳会談の大事な部分とは何でしょうか。ポイントは2つです。歯舞・色丹の2島について、日本への具体的引き渡しの協議をしようということ。もう一つは、国後・択捉についてはどちらに帰属するかの協議を行おう、というものです。日ソ共同宣言の引き渡し交渉と、国後・択捉の帰属も同時に話し合う並行協議案ですが、これについて、プーチン大統領は「承った」と、持ちかえって協議することになったのです。

しかし、2001年4月に小泉政権が誕生すると、話が変わってしまいます。

信じられないことに、2002年5月ラブロフ外相と会った川口外相は、このとき日本の側から交渉の旗を降ろしてしまうのです。米国一辺倒になった小泉政権の方針ですが、同じ政党なのに政策を大転換してきた日本の態度に、プーチン政権側がびっくりして、不信感を強めたのは想像に難くありません。このあと2012年末に第2次安倍政権が誕生するまで、日ロ関係は「空白の10年」になりました。

私も、歴史を踏まえて行動をしているにもかかわらず、こうした「2島先行返還論」を主張したことなどで「2島返還論者」「売国奴」などとののしられることになりました。しかし、そのようなときにあっても、当時小泉首相の官房副長官だった安倍首相は、「鈴木さんは政府の方針を踏まえて日ロ外交を行っており、何の問題もない」と言ってくれていたのです。

次ページ安倍首相はプーチン大統領の琴線を揺さぶった
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