鈴木宗男氏「北方領土への誤解が多すぎる」 安倍・プーチン1215長門会談へ大きな期待

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「日ロ関係に命を懸ける」。公民権が復活する2017年4月30日以降、国政選挙があれば出馬が濃厚だ

有馬:過去には、北方領土問題は、麻生財務大臣が外相だった2006年に4島の面積を等分する「3・5島返還論」などが出たこともあるのですが、こうした分割による「引き分け論」はないわけですね?

鈴木:ないと思います。これに関連して言えば、先般、民進党の野田幹事長が歯舞・色丹の面積をもとに「ロシアは日本から昔100万円強盗しておいて、今になって7万円くらい返すといっているのと同じだ。けしからん」などという趣旨のことをブログで綴っていますが、これは首相経験者の話とは思えないほどの、低い見識に基づいた発言です。

まず歴史の経緯から見て、世界の大国ロシアを強盗呼ばわりして、いいはずがない。もうひとつは、北方領土は陸の面積もさることながら、200カイリの排他的経済水域の概念などでわかるとおり、海の面積が非常に重要だということです。例えば今年サケマスの流し網漁は禁止されていますが、色丹島が日本の領域ということになれば、流し網漁ができる。これだけで、根室市の1年分の予算250億円に匹敵するほどなのです。野田幹事長の主張は、こうしたことがわかっていない、とんちんかんな発言だといわざるをえません。

旧西ドイツから学べ

有馬:結局のところ、落としどころはどうなるのでしょうか? 1956年の日ソ共同宣言をベースにするにしても、今のお話にあったように、当時は排他的経済水域のような概念はありませんでした。また強力な在日米軍もいませんでした。条件が変わっており、2島が直ちに引き渡しされることも考えにくい、というのが現実的でしょうか。プーチン大統領は、北方領土問題を機に、日米安保体制にくさびを打ち込もうとしているとも考えられますね。

鈴木:外交には相手があります。お互いの国益を考えての結論を出すしかありません。日本もロシアもリスクを負うという中で、1956年宣言を元に決着を図るのは一つの手です。しかし、例えば極端な話、引き渡しは歯舞諸島だけだが、それをもとに次の展開が見込めるというなら、私はそれを了としなければならないと思うのです。

この話に関しては、旧西ドイツから学ぶべきです。1972年、東方外交を進めていた西ドイツのブラント首相は、東ドイツを承認、それは東西ドイツ基本条約の形で締結され、東西ドイツは相互承認をしました。この17年後の1989年11月9日にベルリンの壁は崩壊して、1990年には統一ドイツが誕生しました。ですから、歯舞・色丹の2島だけでも主権が戻ってきて国後・択捉島には出て行ける、共同経済活動ができる、となれば状況は変わってきます。

また、日米安全保障条約など、米国との同盟関係については極めて重要です。安倍首相は、ことあるごとにオバマ大統領やバイデン副大統領に直接会って話をして、日本とロシアの領土問題についての理解を求め、納得を得てきました。

トランプ新大統領になっても、それは変わりないと思います。私は安倍首相が、日本の国益を損なわず、日米同盟に配慮しながら、さらに日ロ関係を強固にすることで、中国を見据えたアジアの安定にも貢献するという「地球儀を俯瞰する外交」が実行できると信じています。ロシアも日本と結ぶことで、対中国や対朝鮮半島の関係からも安定が図れるのです。

有馬:「8つの経済協力」への不安はありませんか?やはり、もし関係がぎくしゃくしたら、いざとなったらロシアが施設を接収するなどの問題も考えておく必要はありませんか?

鈴木:「ロシアは経済協力が目当てだ」などという議論は、さきほどの「100万円強盗して7万円返還する」と同じくらいレベルが低い議論だと、私は思います。「ソ連=ロシア」ではありません。そもそもロシア人は高い人的能力を持っていますし、今のロシアは信頼に足るエネルギー大国です。現在は財政が厳しいと言ってもソ連時代とは比べ物になりません。日本人はいいかげん、頭を切り替えなければいけません。

一方で、ロシアは日本の農業や医療などの応用技術に関心を持っています。これは20年違うかもしれず、ロシアにとっては魅力です。世界一の応用技術を持つ日本と、世界一のエネルギー資源大国であるロシアが協力することによって、世界の平和と安定につながります。

有馬:最後に、次の衆議院選挙には出馬しますか?

鈴木:私の公民権は2017年の4月30日に回復します。その後に国政選挙があり、もし北海道のみなさんが「鈴木出るべし」ということなら、出馬します。もし年末の安倍・プーチン会談で北方領土の問題に道筋がついても、その仕上げには2年、3年、5年とかかるでしょう。2島だけでなく、国後・択捉などとの向き合い方にも課題が出てくるはずです。今後とも、生涯日ロ関係に命を懸けたいと思います。

【有馬の目】4島一括でなければ評価しないという意見があるなか、一歩でも進めることが大切と期待する鈴木宗男氏。安倍首相とプーチン大統領の個人的な関係は、日ソ共同宣言以来60年の歳月を埋めるチャンスと見る。北方領土に拘る族議員が見当たらないなか、ライフワークを自負する鈴木氏に丁寧に解説願った。

(撮影:尾形文繁、構成:福井 純)

有馬 晴海 政治評論家

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ありま はるみ

1958年 長崎県佐世保市生まれ。立教大学経済学部卒業。リクルート社勤務などを経て、国会議員秘書となる。1996年より評論家として独立し、テレビ、新聞、雑誌等での政治評論を中心に講演活動を行う。政界に豊富な人脈を持ち、長年にわたる永田町取材の経験に基づく、優れた分析力と歯切れのよさには定評がある。ポスト小泉レースで用いられた造語「麻垣康三」の発案者。政策立案能力のある国会議員と意見交換しながら政治問題に取り組む一方で、政治の勉強会「隗始(かいし)塾」を主宰し、国民にわかりやすい政治を実践している。主な著書に「有馬理論」(双葉社)、「日本一早い平成史(1989~2009)」(共著・ゴマブックス)「永田町のNewパワーランキング100」(薫風社)、「政治家の禊(みそぎ)」(近代文芸社)など。

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