「優生思想」は現代社会に脈々と息づいている 障害者施設殺傷事件が突き付けた問題

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障害の有無や人種などを基準に人に優劣をつけようとする優生思想は、経済力や運動能力などの“生産性”がなければ「生きる価値がない」という考えに結びつきやすい。NHKの福祉番組班では「ハートネットTV」をはじめ、さまざまな番組を放送しているが、取材させていただく方や視聴者の中には、生産性で人間の価値が量られる社会に生きづらさを感じている人たちも多い。

障害者や高齢者、経済的に困窮状態にある人だけではなく、病気で思うように働けない人、コミュニケーションが苦手だったり他人と異なる特徴があったりして学校や職場に居づらい人など……。一見“普通”にしていても、いつ「役に立たない」と排除されるか不安を抱いている側からすると、今回の事件は他人事ではない。そんな“不気味さ”を訴える声が、いまも番組に寄せられている。

「ホロコーストの“リハーサル”」過去からの警鐘

「優生思想は間違っている」。そう否定する前に、そもそも優生思想はどうして生まれたのか、放っておくとどうなるのかをいま一度過去から見直そうと、私たちは2016年9月下旬に、ある番組をアンコール放送した。昨年11月に初回放送したETV特集「それはホロコーストの“リハーサル”だった~障害者虐殺70年目の真実~」だ。同番組の概要を以下に記す。

600万人以上のユダヤ人が犠牲となったナチスによるホロコースト。しかしそれより前に障害者たちが大量に殺害されていた――。第二次大戦勃発とともにナチス政権は「治癒できない患者を安楽死させる権限」を主治医に与える。「T4作戦」と呼ばれるこの作戦により全国6カ所の施設で、医師らに「生きる価値がない」とされた患者たちがガス室に送られ殺された。2年の間に精神・知的障害者や治る見込みがないとされた患者7万人が命を奪われ、作戦中止命令が出されたあとにも各地で医師らが自発的に殺害を継続、終戦までに合計20万を超える人が犠牲となったのだ。

番組では、ダーウィンの「進化論」を人間にも当てはめようとする優生学が当時の医師らによって積極的に取り入れられた経緯を検証。そしてナチスが経済や覇権などさまざまな課題を解決する手段として、優生思想を利用したことを振り返った。ドイツを訪れた日本障害者協議会の藤井克徳代表が遺族や研究者と対談し、同じことを二度と繰り返さないために何が必要かを考えるという内容だった。

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