「50年後、100年後の医療はものすごく進んでいるイメージがあるでしょう。でも、今のように病院が目の前の患者を治すことしかしなかったら、日本は医療の発展に何の貢献もしない国になってしまいます」
確かに、世界の医療産業への今の日本の貢献は、お寒いかぎりだ。日本には世界的なエレクトロニクス企業がたくさんあるにもかかわらず、国産のペースメーカーを作れる企業はひとつもない。血管などを広げるステントや、歯のインプラントも大半を輸入に頼っている。米国などから高価な医療機器を買っているがために、現状では先端医療が非常におカネのかかるものになってしまっているのだ。
しかし、細胞シートは米国が牛耳る医療産業の“潮目”を変えつつある。象徴的な出来事があった。スウェーデンのカロリンスカ研究所が岡野教授との共同研究を願い出て、現在までに細胞シートで6人の患者の治療を行ったのだ。
カロリンスカ研究所はノーベル生理学・医学賞の選考を行っている世界有数の医科大学で、外国技術の受け入れには慎重といわれる。そんなカロリンスカの総長が細胞シートの重要性を見抜き、日本発の技術を使おうと決断したのである。
細胞シートの開発者はまなじりを決して言う。
「僕は日本人は賢いと思いますが、賢ければ賢いほど、ダサく生きないといけないと思います。だって、賢い人たちが楽に生きようとしたら、いくらでも手を抜けるけど、進歩しないから。一生懸命頑張って、新しいことにチャレンジするような日本人がどんどん出てきてほしい。今、治らない病気を治して世界の患者を救ったら、日本は尊敬されて豊かな国になるでしょう」
「再生医療のコメ」であるのみならず、立ち後れていた「日本の医療産業のコメ」としても期待がかかる細胞シート。工学と医学の融合が生んだ、厚さ0.1ミリメートルもない“生きた絆創膏”が見せてくれる魔法から目が離せない。
(撮影:今井康一)
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