欧州経済は、2013年後半に底入れか? アイルランド支援完了へ 欧州の緊縮財政が大転換

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危機回避で統合深化は減速

春先以降、欧州メディアはギリシャ経済の回復を伝える記事も書き始めた。度重なる「国家粉飾決算」や常識を逸脱した国民へのバラマキで欧州債務危機の発端となり、国際社会の信用を失ったギリシャだが、アイルランド以上の財政緊縮によって財政赤字(GDP比)は09年の15.6%から13年には3.8%まで急縮小。基礎的財政収支(PB)に至っては年内の均衡も視野に入った。

むろんギリシャの公的債務残高(対GDP比)は175%と依然EU最悪の水準にある。これを20年に124%まで削減することが義務づけられているため、緊縮財政によるマイナス影響は残る。最近も国営放送の閉鎖を突如打ち出すなど、不安定感が払拭できていない。それでも、1年前に比べて底割れ懸念が薄れているのは事実だ。

一方で、欧州が緊縮財政の呪縛を逃れ、危機の峠を越えたのだとすれば、それはEU統合の深化をスローダウンさせることも意味する。

EU議会議員のクリステル・スカルデモーゼ氏(デンマーク出身)は「私見では、EU議員の3分の2はより強い統合を望んでいる。富の分配という意味の統合なら、さらに賛成者は増えると思う」と語る。

少なからぬEUのエリート層は、現在の国民国家並みに、豊かな地域から貧しい地域への富の再分配を伴う「欧州連邦国家」を遠い将来の終着点としてイメージしているが、それを最初から明言すると富裕国の世論が猛反発し、統合が頓挫してしまう。そのため、「さまざまな危機の解決を通じて加盟国からEUへ主権の移譲を進め、統合を深めるというのがEU構築のプロセスになった」(中央大学の田中素香教授)。

現在のEUの財政規模はEU27カ国の国家予算合計の50分の1(11年で1400億ユーロ)にとどまり、そのうち35%程度が国境を超えたEU域内の格差是正(インフラ、教育支出)に使われているにすぎない。

今回の債務危機対応を契機に、ESMに加え、銀行監督の一元化など各国主権のEUへの移譲は大きく進んだ。が、足元では、ユーロ共同債など財政統合の議論はほぼ完全にストップしてしまった。一時不安視されたEU分裂は杞憂だったが、統合のスピードも低下しつつある。

週刊東洋経済2013年6月22日

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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