銀行が借り手の将来性に貸すのが難しい理由 金融庁の方針を鵜呑みにしたら何が起こるか

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パナソニックプラズマディスプレイの設立に際しては、パナソニックと東レの経営陣が慎重に検討し、問題無いと判断したはずです。通常の銀行員よりもはるかに業界知識が豊富なはずの彼らですら誤った判断をしたのですから、通常の銀行員が当社への融資に際して妥当な事業性判断が下せていたはずがないと考えるのが自然でしょう。

普通に大企業の下請けであったり普通に駅前商店街で魚屋をやっていたりする会社に融資をすることは、パナソニックプラズマディスプレイに融資するよりもはるかにリスクが高い業務なわけですから、それを担保も保証もなしで行えと言われても、銀行にとって容易に受けられる話ではありません。

銀行にとって難しいのはもちろんですが、銀行に検査に入る金融庁の検査官も、どう判断して良いか、迷うはずです。銀行が本当に借り手の事業性を評価できているのか金融庁の検査官が判断できるでしょうか。金融庁の検査官自身も、借り手の事業性が評価できない場合も多いのです。

そうなると、銀行が無謀な貸出を行っている場合(事業性の有無を判断できずに無担保無保証で貸しているケース)に、「金融庁の方針に沿った融資をしていて大いに結構」という評価を下すことになりかねません。

銀行の実務としては、「当社は事業性が十分にあると判断されるので、融資を実行する。なお、念のため、担保と保証をとる」という稟議書を書いておき、金融庁検査の時に見せることになるでしょう。金融庁検査官もその稟議書を見せられたら何も言えない、ということになるのでしょう。

第2のマイクロソフトにカネを貸す?

事業に将来性のある先に貸し出す、というのは、設立直後のマイクロソフトやグーグルのような企業を念頭に置いているのでしょうか。そうだとすれば、それは銀行ではなく、ベンチャーキャピタルの仕事でしょう。

ベンチャーキャピタル大手のジャフコのホームページ には、「ベンチャー投資においては、革新的かつ創造的経営を志す企業に対し、その成長ステージに応じたリスクキャピタルの供給を行い、経営や事業拡大に深くコミットする箏で、起業家の挑戦を支えます」とあります。まさに、ピッタリです。

こうした事業への投融資は、高いリターンが狙える一方で、高いリスクも伴います。ジャフコの直近の決算資料によれば、未上場投資残高480億円に対し、引当金残高は131億円に上っており、引当率は27.4%となっています。銀行がこうした企業に融資をするとすれば、金利がとてつもなく高くなってしまい、到底現実的ではありません。

設立直後のマイクロソフトやグーグルに資金を提供するなら、借り手が倒産して銀行が損をするリスクが高い分だけ「借り手が最高にうまく行った場合には、貸し手にも大きなメリットが見込める」という楽しみが必要です。しかし、銀行の融資には、そうした楽しみが無いのです。借り手のビジネスが最高にうまく行っても、銀行には金利だけしか入ってこないからです。それでは銀行が融資をするインセンティブが湧きません。

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