統合は死んだ、だがEUは生きている 国家でも単なる国際機関でもない、等身大のEUとは?

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そして最後に、このEUの影響力は、経済分野に限定されるものではない。市場とは直接に関係のない平和構築や入国管理などの多くの分野で、EU基準の浸透が見受けられるのである。逆に言うと、こうした共同メカニズムをもたぬ者は、一国でとびぬけた力を持たぬ限り、世界的な影響力の保全に後れをとるのである。それをわかっているからこそ、加盟国エリートは、EUを政治風景の欠かせない一部と見なし続けているのであり、そのEUをやめてしまおうなどとは夢にも思わないのである。

このおいしい権力的な側面は、EUが基本的に平和的・経済的なプロジェクトとして(のみ)語られてきたがゆえに見逃されてきた。平和が当たり前になり、経済が停滞すると、いきおいEUはその存在価値を疑われ、平気で瓦解すら語られるが、それはそのような権力的側面を捉えきれていないことの裏返しなのである。欧州のエリートは、これを守るためにあらゆることをするだろう。

EUのアキレス腱――人々の支持は確保できるか

こうした見方に対して、EUはエリートによるエリートのためのプロジェクトだとし、その脆弱性を指摘し、じきに崩壊すると断ずる向きがある。これは、民主的正統性に弱みを抱えるEUのアキレス腱に関わり、その点を指摘する限りで半ば正しいといえるが、しかし事態の半面しか見ていない。これもまた、劇的なことしか報道しないマスメディアの在り方ともかかわる。

一方で、フランスの「国民戦線」、フィンランドにおける「真のフィン人」、ギリシャでの「黄金の夜明け」、イタリアの「五つ星運動」、そしてつい最近では「イギリス独立党」の成功は、それぞれの政党・運動の背景や内実は多様であるものの、ことEUやユーロに対する否定・消極的な見解に彩られているという意味では、ひとまとめにして語りうる事象である。これらは、躍進のたびに、ニュース価値があるから報道され、またよく消費される。

他方で、その限界については、同様に注視されるべきにも拘らず、ニュース価値に欠けるのか、なかなか報道されない。たとえば、オランダでは右翼の独立党が反ユーロを掲げて2012年秋の総選挙を戦ったが、議席を大幅に減らした。オーストリアでも極右は伸び悩んでおり、ギリシャの「黄金の夜明け」はすでに日暮れを迎えたと酷評されるほど勢いを失っている。なにより、中核国であるドイツでそのような政治的運動が広がっているといえる兆候は今のところない。

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