福島原発、「燃料取り出し」いつ始まる? 〈現地ルポ〉廃炉への遠い道のり(下)

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バスは最後に乾式キャスク仮保管設備を通過後、免震重要棟へ戻る。バスでの取材時間は約1時間半。その後、福島第一原発の高橋毅所長が囲み取材に応じた。

「明確な見通しは困難」「人材確保が大事」と高橋所長

囲み取材に応じる高橋毅所長

「私が来た1年半前と比べれば、安定した方向に向かっているとは思う。現場作業員の被爆線量も1カ月1ミリシーベルト程度まで落ちている。しかし、3月以降、停電や汚染水漏洩などトラブルが続いたことはたいへん申し訳ない」と高橋所長は語った。「今後は原子炉からの燃料取り出しなど新たな取り組みがあり、もっと放射線量が高い環境での作業になる。そのための人材をしっかり確保する必要がある」。

本当に30~40年で廃炉が終わるのかとの問いには、「はっきりした見通しが立てられる状況ではない。(1~3号機の)建屋の中の実態把握はこれからで、作業は(遠隔操作ロボットなどの)技術開発に依存している。うまくいった場合は前倒しできようが、障害があれば後ろ倒しもありうる。時間がかかる廃止措置だが、放射性物質を敷地外に出して不安を与えるようなことはしてはならないと思っている」と答えた。

Jヴィレッジに戻ったのは14時25分。積算線量計は68マイクロシーベルトを表示していた。

今回の取材を通じて実感したのは、事故収束の難しさだ。廃炉の工程は険しく、果てしなく長い。今は汚染水の処理に手を焼いているが、メルトダウンした燃料の取り出しについては方法論が定まっていないどころか、現状把握すらできていない。この日も約3000人の作業員が現場で働いていたが、厳しさを増す作業環境下で人材を確保し、士気を維持していくことは容易ではないだろう。

とはいえ、廃炉作業は何年かかっても貫徹するしかない。過酷事故を起こした国としての絶対的な責務である。東電に任せきりになるのではなく、国際的知見も取り入れながら、政府、規制当局、学界など国全体が総力を挙げて取り組んでいくことが求められる。

(写真は梅谷秀司・日本雑誌協会代表撮影)

 

中村 稔 東洋経済 編集委員
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