――「めしや」にやってきた人々の、それぞれの人間模様が描かれるのが「深夜食堂」の魅力です。
原作は1話10ページいくかいかないかの作品なので、どちらかといえば短編なんですよね。でもそこにはエッセー的な、ある人生の断片が描かれています。それを1本の映画として2時間に広げるのって容易くはないですね。
――それは40話以上やっていく中で実感したことだと。
そう。でもそうしていくうちに、なんとなく自分の中の「深夜食堂」が生まれてきました。「めしや」になんらかの事情を背負っている人がやってくる。きっと彼らが葛藤していることって、おそらく人生の分かれ道になることだと思うんです。どちらの道を歩けばいいのか。そのきっかけを与えてくれるのが「めしや」なんだろうと。僕の中ではそういう風に思っています。
「夜食テロ」といわれるのは不思議な思い
――原作の安倍先生と話し合いはされているのでしょうか。
しないですね。僕が脚本チームと書いたシナリオを順次送っていく。それを読んで、安倍さんからこのエピソードはこう思うといった感想や意見が返ってきます。もちろん認めてくれる部分もありますし、こちらが安倍さんのこだわりを理解したりもする。そういったことの繰り返しでしたね。
――7年たって、お互いの理解は深まった感じでしょうか。
これは奇妙なことなのですが、ドラマの方がより原作への忠実さをこだわっている感じがしますね。逆に映画の方はある程度許容してもらっているように思います。やはり映画は監督のものだから、文句は言いませんよというような区分けが、安倍さんの中にあるのかもしれません。
――深夜においしそうな食事の映像を映し出すいわゆる「夜食テロ」は、「深夜食堂」が先駆けじゃないかと思うのですが。そういったことは意識されていたのでしょうか。
それに関しては特に感心がなかったんですよ。戦略的にやったわけでもなかったですし。だから「深夜食堂」の後に、食にまつわるドラマが次々と生まれてきたし、この作品でいえばアジアでリメークされることになったというのも、まったく不思議な思いです。
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