中野:他の選択肢がないと思ってしまうのですよね、きっと。それは、日本の労働市場に流動性がないからでもあります。
だから会社は、従業員に対して無理難題を吹っ掛けるわけです。異動だってそうですよね。例えば「今から1週間後にジャカルタ支店に転勤しろ」なんて辞令は、まだ珍しくないわけじゃないですか。これが米国の企業だったら、従業員は「ふざけるな!」って怒って、会社辞めちゃうでしょ。でも、日本企業に勤めている従業員は、これだけの無理難題を吹っ掛けられたとしても、たぶん、会社に辞表を叩きつけるなんてことはしないのですよ。ジャカルタはともかく、国内外で無理難題を言われても「分かりました」と言って、赴任するという人が大半ではないでしょうか。それは、今も申し上げたように、この会社を辞めたら最後、他で働く選択肢はどこにもないと思い込んでいるからです。
渋澤:今の子供たちが大人になる20年後、あるいは30年後にかけて、まだ存在していない仕事がどんどん生まれ、働き方も変わってくるなどと言われていますが、教育のあり方は高度成長モデルの年功序列・終身雇用を前提にしたままであると感じます。社会が「働き方を変えるんだ」という意識を一人ひとりが強く持ち、少しずつでもいいから、前に進むことがなければ、旧態依然とした働き方をずっと引きずってしまい、なかなか変われないという状況に陥ってしまうでしょう。
中野:親の責任もあります。今は少し変わってきましたが、親は子供がベンチャー企業に入ることを、よしとしないでしょう。まだ、旧態依然とした、銀行のような大組織に入ることを強く望んでいます。
なぜ、そういう企業に子供を入れたがるのかというと、先ほど、藤野さんが言ったように、変化することを好まないからなのでしょうね。大企業に入れれば、定年まで安定した生活が送れる。大きな成功は望めないけれども、家族を路頭に迷わすようなことにはならない。波風の立たない、変化に乏しい毎日だけれども、安定している。だから、親は自分の子供を大企業に入れたがるし、そういう親の影響を受けた子供たちも、自らベンチャー企業に就職しようなどとは思わない。寄らば大樹の陰で、ひたすら組織にしがみつこうとしている。子供だけでなく、親もそういう考えから脱しなければなりません。実際は、大企業だって、それなりに変わっているんですから。
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