「宅配ポスト」は疲労困憊する配達員を救うか 再配達は全体の2割、1.8億時間の労働に相当

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EC市場が拡大する中でも利幅を確保するべく、各社が取り組みを強化しているのが再配達の削減だ。国土交通省によると、宅配便の約2割が再配達になっているという。これは年間で約1.8億時間の労働時間、9万人分の労働力に相当する(国土交通省の試算)。ドライバーが恒常的に不足する中、再配達を減らすことができれば業務の効率化やドライバーの疲弊を抑制することができる。

再配達の削減施策の代表的なものが、コンビニでの受け取りだ。受け取り先をコンビニに指定してもらえれば、配達員はコンビニへの一度の配達で済ませられる。受け取り側も、宅配業者の配達時間(通常8時から21時)以外の時間でも荷物を受け取れるため利便性が上がる。また、配達員に自宅まで運んでもらうことに抵抗を感じる、一人暮らしの女性などの利用も多いという。

宅配ロッカーを主要駅に設置

そして最近、じわじわと増え始めたのが宅配ロッカーだ。宅配ロッカーは駅やショッピングセンターなどに設置される、24時間いつでも受け取り可能な宅配便受け渡し棚だ。EC注文時や再配達を依頼する際、受け取り先を宅配ロッカーに指定する。ロッカーに荷物が届くと、開錠用の暗証番号がメールで届き、荷物が受け取れる仕組みだ。

ヤマト運輸は5月、欧米を軸に宅配ロッカー事業を展開しているフランスのネオポストグループと合弁会社を設立、宅配ロッカー「PUDO」(プドー、Pick up & Drops off stationの略)の事業をスタートした。利用可能な宅配業者を限定しないオープン型を標榜し、ヤマト運輸に加え、一部地域では佐川急便でも利用が始まっている。

現在、JR池袋駅や東京メトロ、阪神電鉄などの駅中心に約40カ所に設置されており、2022年度には5000台を目指して拡大する予定だ。本格展開前に都内で行ったテスト運用では、再配達削減効果が確認されており、浸透すればさらなる効果が期待できるという。

日本郵便でも、楽天市場などでの購入商品を受け取れる宅配ロッカー「はこぽす」を、昨年から郵便局内に設置。今年は渋谷駅をはじめとした京王線沿線の駅に広げたほか、関東圏外への設置も進めている。日本郵便のみの利用を想定したものだが、他業者も利用できるようオープン化も検討している。

宅配ロッカーで受け取る場合、受け取り側に別途発生する負担はない。オープン化しているPUDOのビジネスモデルは、宅配業者がロッカースペースをレンタルする賃貸収入でまかなうもので、黒字化は3年をメドとしている。設置数を増やし狙い通りの再配達削減効果を得られるか。定着するまでに事業が存続するためにも、他の宅配業者が呼応して足並みがそろうことが大前提になる。

鈴木 良英 東洋経済 記者

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すずき よしひで / Yoshihide Suzuki

『週刊東洋経済』編集部記者

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