JFE、3000億円ハイブリッド債の「功罪」 やはり買収防衛の一環?資本コストの秩序混乱に懸念も
それでもささやかれ続ける買収防衛策説
だが、2月29日付日本経済新聞は、JFEのCB発行に関する記事において、“会社が株主を選択”といった小見出しを使い、買収防衛策としての機能を強調。その記事にほぼ続けて、東証の斉藤惇社長の「既存株主の権利が侵害される懸念がある場合には厳しい対応で臨みたい」とのコメントを掲載している。
この記事は市場関係者から「東証がJFEのCB発行を問題視している」ととらえられたが、東証は「この記事のレイアウトは意図的。たしかに住友金属鉱山が実施した、新株予約権付きローンについて、金額が小さいので大きな問題にはならないものの、同様のスキームで大きな金額で実施されると問題だと、東証としては考えている。だが、社長のコメントはJFEのスキームとは無関係」と反論している。
JFEは、本件CBについて「結果として買収防衛の機能が一部あるということはあっても、それが主要な目的ではない」という。
「買収防衛の目的で発行するならば、MSCBにしなければ機能しないし、だいいちこんなにプレミアムが高くてはダメ」との声も専門家の一部からは聞かれる。
とはいえ、どんなにJFEが否定しようとも、市場がこのスキームを買収防衛の一環ととらえていることは否定できない。
素朴な疑問として、なぜ普通社債ではダメなのか、ということが浮かぶ。ハイブリッド債は資本性が高い分、1~2ノッチほど格付けが下がるのが一般的で、本件についてもR&Iの格付けは長期優先債務格付けの2ノッチ下である。
一方、JFEの純資産比率は4割近い。昨年12月末時点の有利子負債は1兆4043億円と、一見大きな数字にみえるが、JFEが年間に生み出すEBITDA(減価償却実施前営業利益)は実に6800億円。一見巨額にみえる有利子負債も2年で返済できるほどの水準である。
年間2000億円に上る設備投資を、営業キャッシュフローの範囲で賄ってお釣りがくるほどで、むしろデット部分を増やし、よりレバレッジを利かせることが望まれる水準といってもいい。
3000億円を普通社債で調達したからといって、格付けに影響が出るほどではない。高い資本性にこだわる積極的な理由にはならない。同様のことは新日鉄にも言える。
「基本的に買収防衛策は単品ではなく複数の対策を用意しておき、いざというときには合わせ技で対応するもの。調達する資金の使途をうまく説明し、買収防衛が目的ではないという理論武装ができれば、実施したい企業は少なくない」(上場会社法務担当)。