日本の鉄道に「海外製」が増えない根本原因 「品質の違い」ではすまされない問題があった

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京急2100形は、当初ドイツ製だった電気機器を国産品に換装した(筆者撮影)

京浜急行電鉄は1997年、快特(快速特急)用として運用していた2000形の置き換えを計画したが、この際新たに導入する2100形のモーターと制御装置にドイツのシーメンス(Siemens)製の標準設計品を採用してコストダウンを図った。

たとえばモーターの出力は、日本では走行路線に合わせてほぼ10キロワット刻みで設計するが、当時シーメンスの通勤電車用メニューには140・190・230・250キロワットの4種類のモーターしかなく、大は小を兼ねるという設計思想で190キロワットを選定した。ちなみに、同様の編成・性能である600形4次車の国産モーターは180キロワットだ。また、単年度発注では逆に高価になってしまうため、年度を跨いで発注数をまとめたこともコストダウンに結び付いた。

このようにイニシャルコストダウンに成功した京急2100形であったが、いざ営業運転が始まると品質の問題が顕在化してきた。

日本と欧州の「品質」に対する意識の差

たとえば制御装置の電子機器の不具合により、8両編成中4両ある電動車のうち1両のモーターが働かなくなってしまう。性能的にはその状態でも従来の2000形とほぼ同じでダイヤを乱すことは無く、ドイツならばそのまま営業運転を続けるだろう。しかし、日本の鉄道事業者はなるべく早く車両交換を行うのが原則で、故障の原因究明と再発防止対策が行われる。安全・正確な運行は、このような厳格な対応で守られてきたのである。

日本のメーカーは小さな故障も疎かにせず、再発防止対策を積み重ねて世界に冠たる“日本品質”を築き上げた。一方、欧州のメーカーは保証期間内の部品交換が基本であり、同様の故障が多発しない限り、原因究明や再発防止対策を行う意識は希薄である。

このような品質に対する日本と欧州の対応の差により、京急では輸入品の採用を止め、のちに2100形のモーターと制御装置も国産品に置き換えた。モノを売る側の問題点として、日本の鉄道事業者の高度な要求(故障への対応も含む)を十分に理解した上で参入しないと、これと同じ轍を踏むことになってしまう。

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