日本の鉄道に「海外製」が増えない根本原因 「品質の違い」ではすまされない問題があった
日本の新幹線は最初から動力分散方式(ほぼ全ての車両にモーターがある電車)であり、通常の減速に使用する常用ブレーキの大部分は、モーターを発電機として働かせることで制動力を得る電気ブレーキが担う。摩擦ブレーキの出番は、停止寸前と一部の付随車(モーターが無い車両)、それに最後の砦である非常ブレーキだけである。
したがって摩擦ブレーキを改良する動機付けが薄く、300キロメートル以下ならば大きな支障は無かった。車輪の両面に取り付けるディスクについては、車軸に近い内周側で締結する方式が踏襲されてきた。
一方、欧州では動力集中方式(機関車で客車を牽引する方式)が基本のため、動力を持たない客車には高速から摩擦ブレーキを常用せざるを得なかった。ディスクとパッドについては構造・材質・冷却など多岐にわたり研究開発が続けられ、日本と比べて一日の長があるといえる。
車輪両面のディスクは摩擦熱によって変形する(雨傘のように反る)ため、車軸に近い内周側で締結するには太いボルトが必要であるが、欧州では変形の少ない摩擦面の中央で締結するため、細いボルトでも問題ない。熱による摩擦面の変形が小さく抑えられることから、パッドが均等に当たり安定したブレーキ力が得られるほか、摩耗も低減できる。
JR東日本は最高速度300キロメートルを超える新幹線車両の開発に当たり、2005年から試験車両「FASTECH360」にドイツ製の摩擦ブレーキと、同じ設計思想の国産品を取り付けて長期の試験を行った。その結果、同社はドイツのクノールブレムゼ(Knorr-Bremse)製品に軍配を上げ、320キロメートル運転を行うE5系に正式採用した。
これは記事冒頭に挙げた背景のうち③の「日本が実用化していない技術の導入」であり、重要なシステムに輸入品を採用した実績として、海外から政治的圧力がかかった場合の反論に使える好例である。しかし、輸入品だけに頼るのはリスクがあるため、一部の車両には国産品も使われている。
海外製品でコスト低減は図れるか
次に、記事冒頭に挙げた背景のうち②の「世界標準品の活用によるイニシャルコストダウン」の例についてご紹介しよう。
従来、日本の鉄道車両は、各鉄道事業者に合わせたオーダーメードの設計であったため、コストダウンに限界があった。一方、欧州では各メーカーに標準設計があり、諸外国の鉄道事業者は最低限の設計変更でそれを受け入れ、量産効果によりコストを抑制してきた。また日本の単年度発注に対し、諸外国では大量一括発注で設計費を分散させることでコストダウンを実現している。
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