日本の鉄道に「海外製」が増えない根本原因 「品質の違い」ではすまされない問題があった

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国際競争入札で調達したインド・デリーメトロ1号線の電車(筆者撮影)

筆者は現在インドに住み、ムンバイメトロの鉄道車両コンサルタントとして仕事をしている。インドのメトロは国際競争入札で鉄道車両を調達しており、その仕様書は電話帳数冊分のボリュームになる。海外プロジェクトでは、この電話帳のような仕様書が全てであり、逆に言えば、仕様書に書いていないことをやる必要はない。

一方、日本国内の鉄道事業者の仕様書は数十ページ、場合によってはほんの数ページの場合もある。そこには基本的かつ重要な事項、あるいは既存車両との相違点しか書かれていないが、納入実績のある国内メーカーにはそれで十分であり、これまで大きな問題なくやってきた。

筆者が海外メーカーの日本法人に勤務していた時の重要な業務のひとつは、その日本流の仕様書の行間に隠れている技術的な要求事項を拾い上げ、欧州人プロジェクトマネジャーに明確に伝えることであった。これをきちんとやらないと、仕様書に書いていないからやらなかったと開き直られ、板挟みになって苦労するのは自分自身である。日本語と英語の違いなどはたいしたことではなく、技術的要求事項を過不足なく伝えられるかどうかがカギとなる。

日本の鉄道事業者が日本流の仕様書で輸入品を調達しようとする場合、相手(海外メーカー、商社、代理店など)が技術的内容や日本の商習慣を理解しているかを確認することが不可欠である。

海外メーカーを怒らせた日本の鉄道会社

仕様書の紙の枚数を多くしても良い製品ができるわけではなく、双方の信頼関係に基づく日本流の仕様書は、個人的には悪くないと思っている。しかし、ある日本の鉄道事業者、それもかなりの路線網を有する鉄道会社の仕様書を見て唖然としたことがある。最後の項目に「当社の路線を走行して問題ないこと」と書いてあるのだ。すなわち、予期せず発生した不具合についてはメーカー側で面倒を見よということで、これでは「後出しジャンケンを認めろ」と言っているのと同じである。

この条文を正確に英語に訳して本国に伝えたところ、「無限の責任を要求されているので、これでは見積り金額を算出できない」「この鉄道会社は自社の技術的要求を数字や文章で表現する能力を持っていない。鉄道先進国である日本にこんなレベルの低い鉄道会社があるとは信じられない」といった返答があった。

これは昔の話であり、まさか今でもこんな仕様書がまかり通っているとは思わないが、ものを買う側として国際的な常識をわきまえてほしい。

辻村 功 技術士(機械部門)

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つじむら いさお

1956年生まれ、早稲田大学理工学部卒。電機メーカーで鉄道車両用機器の設計業務に従事。外資系電機・ブレーキメーカーを経て独立。現在はインド国内で鉄道コンサルタントとして活躍中。

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