サントリーホールは何が革新的だったのか 日本のクラシック音楽の歴史を変えた

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私自身ホールオープン当時の佐治敬三を間近で見ていただけに、ホールにはとても強い思い入れがあります。部署は変わっても「サントリーホールはサントリーの宝だ」と言い続けてきたのですが、社員たちがホールについてよく知らないことをとても残念に思っていました。現在のポジションになってからは、サントリーホールのすばらしさを社内に伝えることの重要性をとても強く感じています。インナーコミュニケーションですね。
最近は入社式後に新入社員全員がサントリーホールを訪問することも行っていますし、年に一度のサントリーグループ全体会議もホールで開催されています。会議の合間には毎回何らかのコンサートを挟むのですが、今年は30周年の記念の年でしたので、堤剛館長のチェロ演奏を聴いてもらいました。これはサントリーホールを体験してもらうとても良い機会になっています。
サントリーの一員として、自分たちの会社のCSR活動をぜひ誇りに思って欲しいですね。それがサントリーのDNAにつながります。本来、安いものでは1本100円程度の飲料を買っていただくことで成り立つ会社であることから、お客様目線をとても強く意識しています。
佐治敬三はさらにその意識が高く、現場に出てお客様が何を欲しているのかを理解しなければビジネスは絶対に成り立たないという程の現場主義でした。なので、ホールを建設する時にもお客様が何を求めているのかを一生懸命考えたのだと思います。
単に音楽を楽しみに来るのではなくホールにいる時間を楽しみに来るのだから、迎える側もレセプショニストによる笑顔のホスピタリティを導入。お酒を出すのもまたしかり。音楽を楽しむお客様の視点で物事を考えること。それはホールだけではなくサントリーという企業全体に浸透するDNAみたいなものなのです。

次の30年に向けてリフレッシュ

ホール稼働率は、国内はもちろん世界の中でもトップクラス(大小2つのホールで年間約600公演)。30周年を記念したホームページには、世界中のアーティストからの祝辞や賛辞があふれている。これらはまさに、サントリーホールが世界最高峰のホールであることの証明だ。

その世界有数のホールが来年2月から8月にかけて休館し、10年ぶりの大規模メンテナンスを行う。音響は変えず、椅子や舞台の張り替えのほか、開館以来初めてパイプオルガンの本格的なメンテナンスを行うという。さらには、トイレを増やし、エレベーターを取り付けるなど、お客様目線の改修が行われるほかは、現状をキープするというコンセプトだ。来秋にはリフレッシュしたホールで再びコンサートが楽しめることになるだろう。そして次の30年に向けた新たな歩みを開始する。

10月15日、小ホール「ブルーローズ」で、ミラノ在住のピアニスト吉川隆弘がコンサートの最後に語った言葉が心に残る。曰く「僕も学生時代にこのサントリーホールで案内係のアルバイトをしていました。接客をしながら仕事の中ですばらしい音楽に触れることができたこと、それが僕にとってどれだけ刺激になったことか。サントリーホールには心から感謝しています」。

伝統はこうして受け継がれてゆくものなのだ。そのサントリーホールは、今まさに秋のフェスティバル真っただ中。世界最高峰のステージと最先端のホスピタリティを、この機会に是非ご堪能あれ。

田中 泰 日本クラシックソムリエ協会 代表理事

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たなか やすし / Yasushi Tanaka

一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当。2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE「モーニングクラシック」「JAL機内クラシックチャンネル」等の構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。

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