電通が恐れる過労死事件「書類送検」の可能性 当局の胸一つで「一罰百戒」狙いもアリか
大手広告代理店・電通が労働環境をめぐって揺れている。入社1年目の女性社員が過労死と認定されたことをきっかけに、各地の労働局や労働基準監督署が、本社だけでなく全国の支社や子会社に抜き打ちの立ち入り調査を実施。安倍晋三首相や塩崎恭久厚生労働大臣が言及するなど、連日ニュースで大きく取り上げられている。
電通にとって避けたいのが、「書類送検」だ。労基署は通常、違反があれば是正勧告を出し、改善されれば指導を終える。しかし、是正勧告に従わないなど悪質な事例については書類送検(司法処分)し、経営者らの刑事責任を問うことがある。2015年には靴小売のABCマートやクレジットカードのJCBなど有名企業も労働基準法違反で書類送検されている。書類送検されれば、企業のイメージダウンは避けられない。
電通が書類送検される可能性はあるのだろうか。
「重大性」と「悪質性」がポイント
そもそも書類送検されるのは、どういう場合なのだろうか。
東京労働局の担当者によると「重大性」と「悪質性」がポイントになるという。「重大性」は過労死を含む死亡災害の有無や、違法な労働の広がり具合などが対象。一方、「悪質性」は是正勧告の回数などで、勧告を受けた後に提出する「是正(改善)報告書」に虚偽記載があれば、より問題だとみなされるそうだ。
この観点から検討すると、電通の場合、重大性については、2013年に病死した男性社員(当時30歳)と2015年に自殺した女性社員・高橋まつりさん(当時24歳)に対し、それぞれ過労死が認定されている点が当てはまりそうだ。特に後者の高橋さんについては、遺族の弁護団によって過酷な労働環境が明らかになっている。
弁護団によると、会社側の記録では10月の時間外労働は69.9時間、11月は69.5時間と、労働組合との間で決められた上限「70時間」ギリギリだった。しかし、弁護団が入館記録などを調べたところ、高橋さんが精神障害を発症したと認定された11月7日までの1カ月の時間外労働は約131時間もあったという。弁護団は、会社側から労働時間を過小に申告するよう指導されていたとみている。このほかにも上司からのパワハラや、上司や先輩社員を相手にした大規模な宴会の企画・運営なども心身の負担になっていたようだ。