28歳で将棋名人になった男「佐藤天彦」の正体

棋界地図を変えた彼をファンは「貴族」と呼ぶ

ここ14年間は40代半ばの羽生善治三冠(6期)と森内俊之九段(8期)のいずれかが名人に在位していた。今回28歳の佐藤が羽生を破ったことは、世代交代を進める意味でも非常に価値の高い出来事だった。

現在の将棋界には7つのタイトル棋戦があり、そのうち格式や賞金額の高い名人、竜王が2大タイトルと位置づけられている。名人は上の通り、佐藤天彦。竜王と棋王は、佐藤より4歳年長の渡辺明。名人を失った羽生はそれでもなお王位、王座、棋聖の三冠をあわせ持ち、もうひとつの王将を羽生と同世代の郷田真隆が保持するという状況だ。

タイトル数では羽生らの世代が4つ、佐藤と渡辺で3つだが、名人と竜王を若い世代が持っているのは大きい。つまり佐藤の名人獲得によって、棋界地図が塗り替えられたのである。

本人も「貴族」の愛称を受け入れている

佐藤はベルギーのファッションブランドであるアン・ドゥムルメステールを愛し、クラシック音楽のコンサートに行き、中近世ヨーロッパの耽美な雰囲気への憧れを口にする。そんな佐藤を、棋士仲間や将棋ファンは「貴族」と呼ぶ。本人もその愛称を受け入れ、以前に連載していたエッセイのタイトルも編集者の勧めで「貴族天彦が行く」になった。

新名人の佐藤はいったいどのような人物なのか。そのライフスタイルから人柄を掘り下げていきたい。

昨年度に59局(41勝18敗)、今年度は4月から8月末までに17局(13勝4敗)の公式戦を指している。これに全国各地で行われるタイトル戦の移動日や、棋士同士の研究会、イベントの出演などでスケジュールは埋まっていく。名人を獲得した最近は取材の数も格段に増え、忙しい日々が続いている。

この10月からは、毎週日曜日にEテレ「将棋フォーカス」の講師を務めることになった。番組の収録はもちろんのこと、講座テキスト作りも重要な役割となる。先々の方針を決める初回の打ち合わせでは、細部まで妥協せずに突き詰めたため十数時間を費やしてしまった。

将棋界はマネージャーを雇う習慣がなく、スケジュール管理や仕事でのやりとりなどはすべて自分でやる。そういった事務作業はそれなりに多く、オフといっても何もせずゆっくり過ごすことは少ない。

昨年末に引っ越しをして部屋が広くなり、以前はスペースの都合で諦めた家具が置けるようになった。好みはやはり近世ヨーロッパ風のもの。いまは猫足のテーブルを注文して到着を待っている。天蓋つきのベッドも欲しかったが、それはちょっと難しそうだ。おカネの使い方で気をつけているのは、自分にとって大切と思えるものには惜しまず使うこと。よいものを見て学び、熟慮を重ねるタイプなので衝動買いはしない。理想の城はまだ遠く、充実度は30パーセント程度だろうか。

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