大転換の予兆? 金価格急落のミステリー ドルの信認回復をはやす声は勢いを増している

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現実もその流れだ。欧州の債務危機は一応の落ち着きを取り戻し、米国も住宅市場の復調や失業率の低下が進んで、QE3(金融量的緩和第3弾)の出口戦略がささやかれ始めた。

かくして未曾有の金融緩和によるドルの信認低下懸念は後退したうえ、アベノミクスによる円安ドル高も米国政府は是認。シェール革命による米国の将来の経常収支改善期待も「強いドル」を後押しする。金下落の素地は整ったというわけだ。

このようにして流出した、金を含むコモディティからの資金が、日米を中心とした株式市場に向かっていることも、一部の投資家を楽観論に傾けている。

メリルリンチ証券の調べによると、世界の主要な投資信託では今年1月~4月下旬に、コモディティから173億ドルの資金が流出した一方、米国の株式では377億ドル、日本の株式では158億ドルの資金流入があった。こうした資金大移動が現在の日米の株高につながっている。

大規模な金融緩和下でも低インフレが維持されつつ、資金が安全資産から株式などリスク資産にシフトする──。これを一部の投資家は期待を込めてグレート・ローテーションと呼んでおり、今回の金価格急落はその象徴と位置づけている。

「大転換」の行き先

足元の金価格は宝飾品などアジアの実需買いや先進国の投資が底堅く、1400ドル台まで戻している。「鉱山の金生産では限界コストが1400ドル程度となっており、よほど実需や投資が冷え込まないかぎり、これが相場の下値を支える形になるだろう」(野村証券の大越龍文シニアエコノミスト)。

当面、踊り場が続きそうな金相場だが、日米などで株式や不動産への資金流入と資産価格上昇が消費や設備投資に火をつけ、実体経済の回復に波及すれば、リスク資産への資金シフトがさらに進み、金価格はもう一段低下する可能性がある。

しかし、先進国で大規模な金融緩和を続けても低インフレが続いていることは、企業がリスクを取った設備投資にはまだまだ慎重な姿勢を崩していないことの裏返しでもある。実体経済が盛り上がらなければ、いずれグレート・ローテーションへの期待が剥げ落ち、再び金に資金が戻ることになるだろう。

(撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2013年5月18日

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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