株価上昇の裏で進む「日本売り」のシナリオ 国債価格の乱高下で明らかになった、危険な兆候

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これは、現在の金融市場で広く流布されているストーリーであるが、実際のところは、少し疑ってかかる必要がある。なぜなら、日本だけでなく、世界の金融市場においても、債券の投資家と株式の投資家は、別の人々や組織であることが多く、そのような投資行動は、個々にはあまり取られないからだ。

世界的なヘッジファンドの一部に限られた動きである。しかも、今回は、地方銀行が売ったというストーリーも報道されており、可能性としては、国債の投資家が、これ以上の国債保有はリスクが大きいと考え、あるいは、今後、さらに金利は上昇すると考え、売り急いでいる、ということが考えられる。

長期では国債は「安楽死」へ向かう?

これを、裏付ける動きは、5月15日の債券相場の動きだ。午前中に大きく下落し、5年物で0.4%台、10年物の利回りが0.9%台に突入した。この金利上昇を危険と見た日銀が緊急に買い入れを拡大し、金利を引き下げようとした。これは一時的には効果を上げ、国債価格は前日比で大幅下落から、上昇に転じた。

問題は、これが持続せず、その後、やはり国債は前日比で下落となってしまった。この乱高下は、日銀の介入で流れを変えることは出来ず、同時に、投資家たちは、日銀の買いを、売りの絶好機ととらえ、次々と国債市場から退出を進めている可能性を示唆している。

これが国債市場にとって、一番危険なシナリオだ。この話は、まもなく刊行される拙著「ハイブリッド・バブル」で詳細に分析したが、重要なのは、まともな投資家が国債市場から退出し、乱高下をチャンスととらえるヘッジファンドなどが、国債市場の取引ウェイトを上げていくということが起きていると言うことだ。これは、長期的には、国債市場を日銀だけが買い支える安楽死へと向かわせることになる。

現状は、株価が上昇しているから、株安、債券安、為替安のトリプル安、日本売り、と解釈するのには無理がある。しかし、株式市場のバブルを除いて考えれば、日本売りのシナリオは着々と準備されていると考えた方がいいと思われる。

危険な流れが金融市場に生まれている。 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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