(最終回)垂直統合と水平統合、垂直分離と水平分離

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MVNO
この垂直分離をさらに進める制度が、仮想移動通信事業者(MVNO:Mobile Virtual Network Operator)の促進政策です(Thought LeadershipMVNO (1)その可能性とMNOへのメッセージ)MVNOとは、周波数のライセンスを受けずに携帯電話サービスを行う事業者です。すでに、わが国でもカーナビゲーションを行うMVNOが登場しています。総務省では、コンテンツ産業や流通業などの異業種もこうしたMVNO事業に参加できるよう新しい競争環境を生み出そうとしています。これは、ISPがコンテンツビジネスで行った水平展開に似ています。
このように垂直分離が進むと、水平分離が進みますが、この分離されたセグメントから確実に収益をあげていくためには、そのセグメントに応じたコンテンツのアグリゲーションが必要となってきます。インターネットビジネスの世界では、ロングテールと呼ばれるニッチなセグメントから、マスマーケティングに匹敵する収益をあげることができることが知られています(図)。MVNOは、こうしたロングテールから収益もあげることができるビジネスモデルだと言われています。

携帯電話業界の垂直統合
一方、わが国の携帯電話端末市場は、垂直統合型のモデルで成功してきた業界として認識されています。これはわが国の携帯電話ビジネスの黎明期にその技術が確立していない場合、有効に機能しました。現在では、女性、ビジネスマン、若者、中高年、音楽ユーザーなどの細分化された利用者ごとに携帯電話端末が開発されており、端末メーカごとに作るべき端末も決められています。また、携帯電話各社は、お財布携帯や音楽を楽しむことに特化した携帯電話も資本投資も含めて軌道に乗せつつありますが、これらの方針も垂直統合の事例です。こうした垂直統合は、わが国の通信機器メーカの国際的な競争力を阻害させたとも言われていますが、日本の携帯電話市場の成長に貢献したことも間違いありません。今後はMVNOの発達とともに、端末の垂直分離が進むかもしれませんが、いくつか課題があり、さまざまな議論があるところです。

インターネット放送と垂直分離
放送事業者も伝統的に垂直統合によるビジネスモデルを展開してきた業界です。ところが、インフラを持たずに番組のみを提供する垂直分離を進めた事業者が登場したことから、総務省は法律を改定して放送局の定義を拡大しました。さらに、2005年7月の情報通信審議会において「地上波デジタル放送の利用と在り方と普及に向けて行政が果たすべき役割」の中間答申で、インターネットを利用した地上デジタル放送の「再送信」を2008年までに進めることとなりました。通信役務利用放送法でも、事実上、通信と放送の区別は消滅し、インターネットによる「送信」も「放送」とみなせるようになりました。放送の垂直分離はすでに始まっているのです。

インターネット放送と水平統合
しかし、著作権法により「自動公衆送信」という概念が誕生したため、放送事業者や権利者によってインターネット放送は「自動公衆送信」と解され、その権利処理は「放送」よりも複雑になっています。これは日本固有の課題で論点も多いところです。
現場の制作部門からは、放送の時間帯の編成の枠を超えて番組を作りたいという声がでており、地上波による番組配信にはこだわらない方々も現れています。すでに、放送事業者以外の事業者によるインターネット放送も始まっています。
また、海外の放送局は、さまざまなチャネル(地上波、衛星放送、CATV、インターネットテレビ、ポッドキャスティング、ワンセグ、映画館、ビデオショップ、オンラインミュージックショップなど)を流すようになりました。これをコンテンツの細分化とでも呼ぶべき現象ですが、一種の流通レベルでの水平統合とも言えます。

デジタルHDTV
高精細度テレビジョン(HDTV High Definition TeleVision)は、最初はアナログで開発された日本の技術です。ところが、「コンバージェンス」の概念の生みの親でもあるMIT(マサチューセツ工科大学)のネグロポンテが、「これからはデジタルの時代だ」と主張したことから、HDTVはアナログからデジタルへと世界の流れが変わり、日本のHDTVは世界的には孤立してしまいました。この原因のひとつとして、放送局主導でHDTVの垂直統合を進めようとしたことをあげる説がありますが、前述したように新しいインフラを伴う技術は、垂直統合で進めないと事業が立ち上がりません。しかし、国際的に大きな需要を喚起できなかったという点では、わが国の携帯電話にも似ており、問題の所在は別のところにあると思います。その原因をつきつめることに、今後の日本の通信や放送事業の中での国際競争力を高めるヒントがあるように思います。
たとえば、音楽のオンラインショップと音楽を聴く端末を組み合わせた垂直統合型のビジネスモデルが世界的に大ブームとなりました。また、わが国では、ある商社がインフラから映画館まで垂直統合し、さらにCATVやコンテンツでは水平統合して、コンバージェンスを成功させています。このあたりにヒントがあるかもしれません。これらのビジネスは、どちらか単独で行っていたら、ここまでは成功しなかったでしょう。

無線による崩壊的革新
FTTHによるIP放送が注目されていますが、長期的には、無線によるインターネットを利用したIP放送も注目されるでしょう。このためには、バッテリーの駆動時間や画像の品質など解決すべき問題も多いのですが、いずれ加入者から受け入れられるでしょう。ある識者によれば、無線によるIP放送こそが革新的崩壊(disruption)だといいます。ある識者は「ワンセグ放送は、通信と放送を分離してしまった」とも言いますが、放送業界にとって、ワンセグもIP放送もチャネルでしかありません。加入者は、無線だろうが有線だろうが、水道管を誰も意識しないように、インフラのことは誰も意識しない時代になります。通信と放送は本当の意味で水平統合したとき、崩壊的革新が起こるのです。既存の通信業界も放送も、新しい時流に逆らわずにうまく乗ることで、コンバージェンスの成功原則である「コンバージェンスは、それに関わる当事者全員にメリットをもたらす必要がある(The trillion dollar challenge, DTT)」を忘れなければ共存共栄できると思います。
なお、このレポートの意見の部分は私見です。

トーマツの情報メディア通信サービス

池末成明(いけまつ・なりあき)
監査法人トーマツ  TMT(情報・通信・メディア)グループ シニアマネージャー
E-mail tmt@tohmatsu.co.jp
URL http://www.tohmatsu.com/
妻、高校1年生の娘と千葉県我孫子市に在住。犬を飼えるよう妻と交渉中。
趣味は、音楽鑑賞(モーツアルト、バッハ、プッチーニ、レハール)、神社めぐり、家系調べ、読書。
昨年は、夢枕獏、キャサリン ネヴィル、ダン・ブラウンと娘の影響で「NANA」にはまる。
ナルニア国物語が映画になったことが嬉しい。小学校からのナルニア国物語のファン。
科学史と各国の古代史に関心。
【経歴】
1957年 東京生まれ
1980年 国際基督教大学 教養学部卒(物理学専攻)
1980年 富士通株式会社 海外事業本部にて中近東・南アジアの通信ビジネス担当を経て、パソコンビジネスの海外マーケティング担当
現在 監査法人トーマツ TMTグループで開発業務管理に従事
【著作】
「コンテンツビジネスマネジメント」(日本経済新聞社、共著)
「ビジネス環境および諸概念-米国公認会計士試験実戦問題集」(中央経済社、共著)
「米国公認会計士試験実戦問題集 ビジネスロー・税法」(中央経済社、共著)
「新・米国公認会計士試験重点解説シリーズ ビジネス・ロー」(清文社)
「米国公認会計士試験重点解説シリーズ ビジネス・ロー」(清文社)他

 

池末 成明

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