中国がピリピリ、「花夫人」とは何者なのか 習近平政権下で強まる言論への規制<3>

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給料から手当の一部が取り消され、大学の党委員会の書記に呼び出された。そこで自ら辞職を申し出るよう強要された。ちなみ中国の大学や会社には共産党委員会があり、組織を指導する立場にある。大学党委員会のトップである書記は事実上大学のトップである。

花夫人はその書記に、中国で違法とされる気功集団「法輪功」との関係を探られたと言う。法輪功とは1999年、陳情のため、国家指導部の住居や執務室がある北京の心臓部、中南海を取り囲むという実力と組織力を見せたため、中国では違法組織として厳しい取り締まりを受けている。法輪功側も活動の中心を香港やアメリカに移し、反共産党キャンペーンを展開している。書記は、その他にも花夫人が聞いたことのない様々な組織名を上げて関連を疑った上、一対一の密室で行う心理カウンセリングをしてはならない、と命じた。

鼻を真っ赤にして泣き出した

「カウンセリングの際に、私がインターネット上の発信を利用しているのではないか、と疑われました。今までにない辱めです。私の人格を否定し心理相談を辱めたのです。カウンセリングは中立の立場を貫くべきで、自分の価値観で判断するのは一番してはいけないことです。でも、こうしたことを口にしたというのは、カウンセリングを全く理解していない」

そう言っているうちに大きな目にはみるみる涙がたまり、花夫人は鼻を真っ赤にして泣き出した。その話からは、当局側は彼女の発信そのものより背景に何らかの組織があるのか、あるいは彼女が学生を組織化しているのではないかという可能性に、神経を尖らしているのが透けて見える。

アカウントの変更は107回

作品を発表するための彼女のアカウントは何度も封鎖され、曰く変更は107回。しかし、それとは別に10年以上仕事用に使っていたソーシャルネットのアカウントも去年凍結されてしまった。仕事に障るので、運営会社の本社まで乗り込んだところ、政府の監督官庁の指示があったと明かされたという。「お茶」に呼ばれ、アカウントが封鎖されても誰もその理由を言わない。ある日突然、レッドカードを食らうのだ。しかし、花夫人はその圧力に屈するのかと思いきや、却って鼻息が荒い。

「政府が一体いつ、どのデータを使ってはいけないと言ったのでしょうか。もしきちんと伝えてくれたら、私がそのデータを使うことはないです。でも誰も教えてくれないから、私はこれまでのように発信を続けます。知識人として声を上げるのは当然だからです。私の目的は、社会で起きている事象や歴史の真実を人々に示し、考えてもらうことです。皆が自分の考えで人生を選択できるようにしたい。その上で、もし豚小屋のような生活を続けたいのなら、続ければいい。でも、騙されたまま人生を送るのはとても悔しいことです」

統制は最近厳しくなっていると思いますか、と問うと、「そうですね。現に私の職業も無くなっているわけですし」と吹っ切れたように花夫人はケラケラっと笑った。
 

宮崎 紀秀 ジャーナリスト

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みやざき のりひで / Norihide Miyazaki

日本テレビ報道局、社会部警視庁担当記者、外報部デスク、中国総局長などを経て現在はジャーナリストとして北京在住。主に「バンキシャ!」「ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」など日本テレビ系列で放送する報道番組にコンテンツを提供。中国がらみのルポを得意とする。

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