中国当局が腐敗告発者を"別件逮捕"した理由 習近平政権下で強まる言論への規制<2>
習近平体制の発足から半年ほど経った頃、目立ち始めた別の現象があった。中国版ツイッター「ウエイボー」で多くのフォロアーを持つなど、ネット上で人気を集める著名人たちが、次々と摘発され出したのだ。有名な投資家でもあり、1200万ものフォロアーを持っていたが薛蛮子(ハンドルネーム)が、2013年8月、買春の疑いで、北京で身柄拘束されたニュースは、中でも目を引いた。国営中国中央テレビは、警察が買春の現場に踏み込む一部始終を放送。金やティッシュペーパーまで写っているという生々しいものだ。
さらに、身柄拘束中の薛のインタビューを流す。それは、薛がカメラの前で「ネットに関して言いますと、私は虚栄心が強く、浮ついた言論によって、大衆の支持を騙し取る人間だと思っています」と、買春とは無関係の内容を語り、それまでのネット上での自らの言論活動に対する反省を「自白」するものだった。そのざらついた不自然さを、誰もが感じたはずだ。
「別件逮捕」と思われる憂き目にあった人物が、取材に応じてくれることになった。去年12月、彼の住む中国南部の広州へ向かった。
私的流用の疑いがある公用車をネット上で告発
その人物、区伯(ハンドルネーム、62歳)は、スリムな体に白い薄手のジャンパーを着て、好々爺といった風情で現れた。タクシーに私も同乗して自宅に向かったのだが、その途中、区伯が「あれは、税関の車だ!」と突然叫ぶと、携帯電話を取り出して、並走する銀色のSUV車を写真に収めた。さらに、腐敗を取り締まる警察の規律検査委員会に電話をかけ、「車が学校で子供を乗せ迎えに使われていた」と説明した上、車のナンバーを伝えた。区伯は、私的に流用されている疑いがある公用車を見つけては、ネット上で告発し、ネット民の人気と支持を得ている。その活動の一端を、私は偶然目撃したわけだ。
区伯の背中について歩くと、自宅は古いマンションの一室だった。絵を描いて遊ぶ2歳くらいの赤ん坊は、孫だという。妻や孫はビデオに写さないで欲しい、とお願いされた。家族の身の安全を考えての対策である。
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