中国がピリピリ、「花夫人」とは何者なのか 習近平政権下で強まる言論への規制<3>

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「インターネットによって得た大きな収穫は、元々閉鎖されていて本当だと思っていた一部の情報を比較できるようになったことです。情報の開放度が高まったので、私は皆に考えてもらいたいと思いました。そのような場を提供して、世界の焦点や皆が注目している問題を共有したいと思いました。また、私の趣味でもある歴史、人文、詩歌など自分が楽しんでいる話題を皆で共有したいと考えました。最初は自分が楽しむ目的でした」

花夫人は、写真や絵に短い文章を添え、字体やロゴの体裁を整えて一枚絵にし、ブログやソーシャルネットで発信している。写真は主にネット上で探し、詩的な言葉や故事なども用いた「分析」や「視点」を添える。文章は、ネットからの転用もあれば自作の時もある。独特の視点で社会事象を切る花夫人の作品は人気を集め、フォロアーが数万人に上ったこともあったという。

「お茶を飲む」とは、どういう意味か

一方で、多様な発信には中国当局の目を引く内容も含まれていたのだろう。花夫人はこれまでも度々、国家安全部など治安当局から調査を受けてきた。中国では、突然、当局者から事情聴取とも警告ともとれる呼び出しを受ける。ネット民はそれを「お茶を飲む」と表現する。花夫人が最初に「お茶に呼ばれた」のは5年前の2011年。「あの時は本当に怖かったですね」と笑うが、実はその当時もその後も、発信の何が悪いと明示されたわけではないという。従って本人も、具体的な発信内容の何が問題だったかははっきり分からない、と話す。

兄弟の物語と1枚の写真を組み組み合わせた作品

しかし、戦後70周年にあたる去年、事情は変わる。明確に指摘を受け警告された発信があった。それは兄弟の物語と1枚の写真を組み合わせた作品。物語は「強盗が家に入り兄が必死に戦った。兄が強盗を追い払った後、隠れていた弟が出てきて、怪我を負った兄を追い出した上、『兄はクズで自分が一家を救った』と吹聴した」という内容である。この話に花夫人が組み合わせたのが、第二次世界大戦で旧日本軍が降伏する写真だった。

この組み合わせが連想させるのは、日本軍と全面的に戦って疲弊した国民党との内戦に、共産党が勝利し中国を建国したという史実である。しかし、それは中国で一般的に信じられている「共産党が日本を撃退して中国を解放した」とする歴史観とは異なる。花夫人は「お茶を飲んだ」際の様子をこう語る。「ストーリーはネットに出ていた笑い話です。それを単独で見た時は問題ない。写真も問題ない。でもこの二つを組み合わせると良くないと言われました」。

さらに、これまでなかった事態も起きた。

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