16歳少年を殴る「中国ネット言論規制」の現実 習近平政権下で強まる言論への規制<1>

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横で話を聞いていた父親の牛胡さん(39歳)は、息子が警察で暴行を受けた話を初めて知ったと言い、憤慨した。

牛胡さんは当時、出稼ぎ先で息子の刑事拘束を知った。刑事拘束であれば、正式に起訴され裁判にかけられる。万一、有罪となれば、まだ中学生の息子の将来に影響する。より軽微な行政拘束や罰金で処理してもらえないか、と警察にかけ合ったが、埒が明かなかった。そこで、弁護士や中国の記者に助けを求めたところ、一部のメディアが、この「異常事態」を取り上げ、世間の耳目を集めるに至った。

それが功を奏したのか、あるいは、警察も未成年で他意が無かったことを汲み取ったのかは不明だが、楊君の扱いは刑事拘束から行政拘束に変わり、7日後には釈放された。

若者らしい潔癖さ

楊君は若者らしい潔癖さを持っている

楊君は「警察が遺族を殴っている」と書いた部分は事実ではなかったと認めているものの、警察の怠慢を指摘しようとした自分の行為自体は「正しかったと思う」と話した。

もし同様の事態に再び直面したら、ネットで発信しますか?と尋ねると、「当然です」ときっぱり応えた。

「正義感を持って発信したものであれば、自分の力で確認できなかったとしても、騒ぎを起こしたとは思いません。人命に関わる案件は、一番に解決しなければいけないのに、警察は数日たっても遺体を取り囲んでいるだけで、何もしなかったのは、いけないと思います」

得意な科目は数学と化学、好きなスポーツはバスケットボール。今、関心を持っているのは、官僚腐敗の問題で、将来は男だから軍隊に入りたい。そう話す楊君は、若者らしい潔癖さを備えた、利発な少年である。そんな少年の書き込みにさえ、当局は神経を尖らせ始めたのだ。これは、習近平体制の発足から6カ月後に起きた事件である。

宮崎 紀秀 ジャーナリスト

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みやざき のりひで / Norihide Miyazaki

日本テレビ報道局、社会部警視庁担当記者、外報部デスク、中国総局長などを経て現在はジャーナリストとして北京在住。主に「バンキシャ!」「ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」など日本テレビ系列で放送する報道番組にコンテンツを提供。中国がらみのルポを得意とする。

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