現金を利用しなくなると、これまで政府が享受してきた利益はなくなってしまう。昔から現金を発行することで政府は大きな利益(通貨発行益、seigniorage)を得ていた。江戸時代の日本では、古い小判に銀を加えて金の含有量を減らし、2枚の小判から3枚を作ったことがある。小判2両分に安い銀を加えて3両が手に入ったので、幕府は銀の費用を差し引いた1両弱を通貨発行益として得ていた計算になる。
1万円札を製造するコストは数十円と言われており、製造費用を支払っても同じように大きな差益が出るように見える。現在では通貨発行益の話はもっと複雑だと考えられており、筆者も同意見だが、ここでは一部の論者の言うように現金(紙幣と硬貨)を発行した場合に利益が出るという単純な話で考えよう。
現金を廃止すると政府・日銀に損失が発生する
大量の現金が経済に出回っている日本では、毎年多額の通貨発行益が発生していた。現金を廃止するためには、日銀と政府は企業や家計が持っている紙幣と硬貨を買い取ることが必要で、そのための資金を用意しなくてはならない。現金を廃止すると、これまで現金発行で毎年得てきた利益が得られなくなるだけでなく、逆に損失が発生するのだ。
現金を廃止しなくても電子マネーやデビットカードなどでキャッシュレスの取引が増えて行くとみられるので、日本の現金残高はどこかで減少に転じる可能性が高い。
実際にスウェーデンでは、スマホのアプリやクレジットカードなどによる支払が急速に進み、現金による取引が縮小している。このため企業や家計が保有している現金の残高は減少しており、中央銀行は現金を発行するのではなく回収に転じている。ロゴフ教授は各国の通貨発行益を試算しているが、スウェーデンではマイナスとなっていると指摘している。
ロゴフ教授は、日本は長年デフレに苦しんでおり主要国の中で最初の現金廃止国となる最有力候補だとしている。しかし日本では現金が経済規模に比べて非常に高い水準となっているので、現金廃止に伴う損失はスウェーデンよりはるかに大きいものになるはずだ。現在日本銀行が国に収めている毎年数千億円程度の国庫納付金がなくなり、逆に国が日銀支援のために給付金を支給することが必要となって、こうした損失は我々の税金が投入されるという形で表われてくるだろう。
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