佐々木さんは勤続3年目。千葉県の最低賃金は時給842円であり、15万4000円の基本給は最低賃金に近い金額だ。福祉用具事業は都道府県から認可されて営業する介護保険事業で、社会保障費の縮小の流れで事業者が手にする報酬は減り続けている。事業所の報酬減は人件費の圧縮に直結する。介護関係職は最低賃金に張りついた給与で働かせる、という意識が根付いている。
「会社は居宅介護支援事業所と福祉用具をやっていて、福祉用具は私ひとりでやっています。営業、相談、納品、介護保険請求の全部です。3年前に福祉用具の仕事を始めてから必死で勉強して、器具の解体組み立てとかもして専門性は身に付けました。頑張ったのはやはり学歴もないし、子どもと自分のためになんとか手に職をつけようって意識。でもどれだけ頑張っても、ちゃんとおカネがもらえない」
経営者への給与アップの要望は、はぐらかされて終わっている。詳しく話を聞いてみると、やはり彼女が勤務するのは介護保険の不正請求が常態化している悪質な事業所だった。
福祉用具貸与・特定福祉用具販売事業は、介護保険法によって人員基準が定められている。常勤換算で福祉用具専門相談員は2人以上の設置が必要だが、佐々木さんの勤める事業所は名義貸しで架空の管理者兼福祉用具専門相談員を置き、最低賃金に張りついた低賃金の佐々木さんひとりに運営させるという状態だった。千葉県や木更津市に虚偽の申請をして、介護保険を不正請求するという手口だ。
雇用契約書、出勤簿、給与明細を偽造
「介護保険法で福祉用具専門員は常勤2人以上って決まっている。けど行政の実地調査は報告がないかぎり、定期的に回ってくるだけ。必ず事務所に連絡をして日にちを決めて調査に来るので、そのときだけ介護保険法に則した書類をそろえる。ひとりしか働いていないのに2人以上で運営しているという書類を膨大に作成して、不正を隠すんです。普通に文書偽造。すべて社長の指示でやっています」
行政の実地調査までに偽造の雇用契約書、出勤簿、給与明細などを準備して人員がそろっているように見繕う。この不正請求は、全国の多くの介護保険事業所で常態化している。
「うちは200人近く利用者を抱えています。最低でも2人、普通は3人くらいで回す人数です。月に200人の利用者を回れるかと言えば、不可能だし、ひとりだとどんなに頑張っても半年ぐらいはかかる。モニタリングをしたくても、激務でまったくできない状態」
佐々木さんは、ただ働いているわけではない。資格を取得して、さらに専門性を身に付けて多くの高齢者や家族に信頼され、売り上げを上げても貧困ギリギリの生活から抜け出せないのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら