32歳高年収女子、「モテ女テク」に悶絶した! 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<5>
もはや婚活とは、受験や就活と同じものなのかもしれないと、杏子は思う。つい最近まで、婚活目当てで食事会を渡り歩いているような、雰囲気だけ可愛い系のOLを、杏子は馬鹿にしていた。エリートサラリーマンに群がるみっともない女たちだと、完全に見下していた。
しかし、それは間違っていたのかも知れない。彼女たちは、少なくとも杏子よりはずっと早く結婚のハードルの高さを認識し、戦略を練ってアクションを起こしていたということだ。今となっては尊敬にすら値する(態度には出さないが)。
そして実際、彼女たちのほとんどは、30歳までにそれなりの相手とゴールインを果たしていた。自分にも、同じ業が成せるのだろうか。
社内のマドンナ的存在のモテ女を観察
食事会に誘ってくれたのは、同じ会社のバックオフィスに務める由香という同期だった。杏子とは同じ大学出身で、付き合いは長い。ふわりと柔らかいオーラを持つ彼女は、いわゆる癒やし系として社内でも評判が高く、マドンナ的存在の女だ。
しかし、この女に夢中になり泣かされた男は数知れない。昔からハイスペックな男たちを掃いて捨てるほど渡り歩いていた。さらに、実は彼女は既婚を通り越してすでにバツイチ、現在は社内不倫中と噂の、とんでもない女である。
由香が結婚を決めたとき、周囲の男たちはこぞって落胆していたし、離婚をするとソワソワと喜んでいた。杏子はそんな彼らに、冷たい視線を送ったものだ。
この業界の男たちは、西麻布あたりに生息する財力でしか男を評価しない、甘やかされた女たちが大嫌いだと、常日頃から宣言している。それなのに、結局引っかかるのは由香のような、「ザ・ゴールド ディガー」、つまり金目当ての女ばかりなのだ。
杏子は由香のことが嫌いというわけではない。しかし、会社でも女を全面に出し、男たちをあしらいながら要領よく仕事をこなす彼女は、自分とは全く別の人種なのだと一線引いた付き合いをしていた。しかし、背に腹は代えられぬ。杏子は由香の絶好のタイミングでの誘いに乗ることにした。
退社後にオフィスビルのエントランスで落ち合った由香は、ベビーピンクのノースリーブのサマーニットに、真っ白なフレアスカートを合わせていた。肩にはセットアップのカーディガンをちょこんと乗せ、耳元には静かに揺れる華奢なパールのピアス。よくよく由香を観察すると、直人の勧めるコーディネートそのものだ。