32歳高年収女子が結婚相談所で知る衝撃事実

東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<2>

――男性がドライブ中に道に迷ってしまっても、あなたは道順を提案してはいけません。黙ってそっと見守ることで、彼は自信を失わずに済みます――

恋愛本には、こんな不可解なノウハウが延々と続いている。杏子は、タクシードライバーにすら最短経路の裏道を細かく指示する女だ。急に人格を変えると言っても限界がある。

やはり、結婚相談所にお世話になるのが一番てっとり早いものなのかと、杏子は無花果が練り込まれたパンを頬張りながら、心は相談所へと傾いて行った。

結婚相談所のパンフレットにざっと目を通したところ、登録料の相場は3万~5万円、入会金は10万円前後、月額料は1.5万~2万円。そして、成婚料は20万円前後といったところだ。

高給取りの杏子にとって、特に高額でもない。むしろ本当に素敵な結婚をすぐに提供してくれるのならば、100万円即金で払ってもいいとすら杏子は思ってしまう。

また、結婚相談所は、基本的には「コンシェルジュ型」と「イベント型」に分かれるらしい。イベント型の場合は、月額料は取られず、イベントごとに課金されるシステムのようだ。

イベントとは、よく耳にするお見合いパーティのようなものだ。杏子はもちろん、番号札なんかを付けてパーティに参加するのは御免だ。万一知り合いに遭遇したりしたら生きていけない。

入会するならば、定期的に直接男性を紹介してもらえるコンシェルジュ型だと、杏子は目ぼしい結婚相談所をピックアップし、とりあえず初回無料カウンセリングの予約を入れた。単純に、価格が一番高い相談所を選んだ。価格とサービスは比例するに違いないし、窓口がオフィスのある丸の内から少し遠い、渋谷にある点も好都合だった。

とうとう足を踏み入れた結婚相談所は?

「はぁ......」

数日後、その結婚相談所の前で、またしても杏子は大きな溜息をついた。とうとう自分はこのレベルまで堕ちたのだと思うと、やはりプライドが疼く。

踵を返したくなるのをぐっと堪えてドアを開けると、そこはまるで美容皮膚科の受付のような雰囲気だった。40代後半くらいの小綺麗なスーツ姿の女性が、ホスピタリティの塊のような笑顔を浮かべている。怯みながらも杏子が名前を告げると、「お待ち致しておりました」と丁寧なお辞儀とともに、奥の個室に案内された。

「まずは差支えのない範囲で結構ですので、こちらをご記入してお待ちください」。テーブルの上には、健康診断の問診票のような書類が置かれていた。住所や生年月日はもちろん、学歴、年収、趣味、家族構成、身長体重など、事細かなデータを記載するようになっている。

「婚活アドバイザーの、直人と言います。よろしくお願い致します」。出された甘ったるいアイスティーに口を付けたところで、急に若い男が勢いよく部屋に入って来たので、杏子は一気に緊張した。

「お客様は、コンシェルジュのプランをご希望ですね。では、まずは結婚相手の希望など伺ってもよろしいですか」。婚活アドバイザーを名乗る男は、杏子のプロフィールにざっと目を通し、真顔で杏子を見つめた。杏子は自分の顔がジワジワと赤くなるのを感じる。何を隠そう、この婚活アドバイザーと名乗る男は、稀に見る超イケメンなのだ。しかも、年齢もさほど変わらないように見える。

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