32歳高年収女子が結婚相談所で知る衝撃事実

東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<2>

こんな王子様のような顔をした同年代の男に、私は情けない心境を暴露しなくてはいけないのか。「今日は少し話を聞いてみたいな、と思って来てみただけなんです。特にまだ結婚を真剣に考えてるわけじゃないんですけど、結婚相談所って、どういう感じなのかなと……」。

杏子はまたしても、プライドを守るため受け身の態勢をとった。「失礼ですが、それは本心ですか。でしたら、杏子さんは当分の間は結婚はしなくていい、という理解でよろしいですね?」。

「いや、そういうわけではないんですけど、その……」

「もし、それなりに結婚願望があって弊社に足を運んでいただいたなら、無駄なプライドは捨ててください」。直人の声は、厳しくなった。「杏子さん、自覚はあると思いますが、貴方は美人で、32歳。まだ需要は高いです。言い換えれば、貴方の女性としての市場価値は、今はまだ高い。しかし年々、いや月々、その価値は落ちて行きます。これは事実です。結婚をご希望なら、すぐにご入会をお勧めします。僕が全力でアドバイスをさせて頂きます」

金融業界にお勤めなら相場には詳しいでしょう、と、彼は杏子を睨みつけるように言い放った。何もかも見透かされたような物言いに、杏子は言葉が出ない。

直人の言葉は杏子のプライドを軽々と越えて胸にグサグサと刺さったが、それは同時に不思議な説得力があった。

遠慮なく浴びせられるアドバイスは信用に繋がる...?

杏子は気づけば、直人に言われるままにプロフィールシートを事細かく記入し、入会の手続きを取っていた。その場でプロフィール写真を撮影することになったが、会社帰りの黒いスーツのままでいると、直人がシフォン素材の薄紫色のブラウスを持って来て、それに着替えるように指示した。

「今後、黒などの暗めの色は、あまりお召しにならないようにしてください。杏子さんは髪も黒いので、魔女のような印象になります」

「え……?」

直人はやはり失礼な物言いの男だが、しかし、ここまで率直に杏子に意見する人間に会ったのは久しぶりだった。昔は厳しかった親ですら、超エリートと化した杏子に今では何も言えず機嫌を取ろうとする。会社の上司ですら、その傾向があった。杏子は直人の言葉に怯え苛立ちながらも、この相談所に信頼が芽生え始めた。

入会後、杏子の元へは、どっさりと男性からの「会いたい」というオファーが届いた。直人がそのオファーを整理し、杏子の元へ数名のプロフィールシートを送ってくれた。年齢は30代半ばから40前半で、医者や弁護士、経営者といった、意外にもハイスペックな男性ばかりだ。

そのプロフィールシートを見ているだけでも、かなり興味深い。こんなに男たちが独身で、結婚を求めているだなんて。

杏子自身も結婚相談所への身元の証明として、大学の卒業証明書、社員証、住民票、独身証明書のコピーまで提出を求められていたので、紹介される男性は信用が置けた。

送られてきた書類には、「この人と会いたいですか? YES or NO」と記載されたシートが入っており、いずれかに丸をつけて返送するらしい。YESの場合は、希望日時の候補日まで記載する形式だ。

杏子はプロフィールを吟味した上で、35歳の経営者のシートにYESの丸をつけて返送することにした。写真の顔は爽やかで、年収は約4000万円とのことだ。理想を余裕で満たしている。

悪くないサービスではないか。しかも意外に面白い。杏子は数日前の落ち込みが嘘のように、これから始まる婚活への希望に気分が高揚していた。

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