混迷する中東を読み解く「世界史」の3視点

「数年、数十年、数百年」の流れを見よ

この記事では、3つのポイントを紹介しておきたい。

なぜアメリカのプレゼンスが後退したのか

ポイント1:アメリカの後退

中東の不安定化には、いくつかの複合的な要因がある。最初の理由は、アメリカのプレゼンスが中東で後退していることだ。イラク戦争後の統治の失敗が誰の目にも明らかになり、シェールガス・オイル革命によって、アメリカにとっての中東の重要性も変化した。

統治の失敗ということで言えば、当のブッシュ大統領(当時)があれは間違った戦争だったと認め、2016年7月には、イギリスのチルコット委員会が、6000ページに及ぶ報告書を発表し、イラク戦争に踏み込んだ当時のブレア政権を厳しく批判している。

シェールガス・オイル革命の影響を見れば、いまやアメリカは世界一の天然ガスと原油の生産国だ。オバマ大統領が「再生可能エネルギー重視」へと舵を切り、「グリーン・ニューディール」を提唱してからたった5年しか経っていないのに、なんとも皮肉なことが起こった。

1970年代の終わりから、三井物産の調査マンとして中東情勢を見てきた私からすれば、アメリカの中東政策はずっと失敗の連続だったのだが、そもそも中東の現代史は、アメリカだけでなく、英仏など、欧米大国の横暴の歴史そのものだった。

2016年は、サイクス・ピコ協定から100年目の節目の年にあたる。この協定は、第一次世界大戦後、オスマン帝国を解体した欧州列強の英仏が中東の利権を確立するために人工的に国境線を引くというものであり、現在の中東の国境線の基礎となっている。

中東の民族の歴史からすれば何のいわれもない国境であるが、第一次世界大戦後この地域の覇権を取ったイギリス、そのイギリスがスエズ以東からの撤兵を決定した1968年以降覇権を取ったアメリカ、そして「イラクの失敗」後、そのアメリカのプレゼンスの後退によって、地域が液状化してきているのだ。

ポイント2:地域パワーの台頭とアラブの春

中東地域における液状化の背景を理解するには、湾岸産油国(GCC)とその外縁の国々に分けて考える必要がある。

アメリカは後退しているとはいえ、GCCはアメリカが権益を持つバイタルインタレスト(死活的利益)であり、ここは何としてでも死守する。このGCCは、われわれが「アラブ」と呼ぶゾーンだ。しかし、その外縁の国々に対して、アメリカは動かないし動けない構造に陥っている。その地域において、大国の後退に反応するかたちで、鳴動が始まっている。

近年、中東で起こっていることで刮目すべきことのひとつが、「アラブの春」だろう。これは、2010年にチュニジアで起こったジャスミン革命に端を発し、アラブ諸国に伝播した、民主化を求める人々の大きなうねりだ。

そのうねりは、チュニジアやエジプトなど北アフリカにとどまらず、イエメン、ヨルダン、オマーンなどの中東・湾岸諸国にも波及する勢いを見せた。

それらは、マスメディアが「挫折」という言葉で総括するように、成功裏に進んでいるとは言えない。エジプトは軍事専制に逆戻りし、リビアもシリアも混迷を深めている。

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