Kindle読み放題"急変"、裏にあった「想定外」 他国とまったく違う日本の出版事情

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実際には、問題はこれだけにとどまらない。一度は書籍をKindle Unlimitedに提供した出版社が、それを早期にひっこめた例も少なくない。中には、著者への相談不足もあったように聞いている。

だがそれより重要だったのは、「思った以上に皆が読み放題に流れ、きちんと買ってくれる人が減るペースが大きかった」ということだ。

電子書籍では、書籍の「存在」を示すのが難しい。そもそも買いに来ても、ほとんどの人は「検索」しない。さっと新着やランキングを眺めて、欲しいものがあるかを確認するだけだ。Kindleのランキングは、Kindle Unlimitedスタート以降、読み放題対象作品であふれている。すると、Kindle Unlimitedに入っている人はそこで手を止めるし、そうでない人には目的の書籍が目につかなくなる。

市場の「違い」に合わせたビジネスの姿が見えてきた

本来ならばアマゾンは、

・ マンガなどの多い日本にあわせた読み放題のカウントの仕組み
・ Kindle Unlimitedとそうでないものを分けた、わかりやすいランキング

 

などの仕組みを整えた上でサービスを開始すべきだった。そうすれば、読み放題をショーケースに有料の本を売るモデルが成立する。だが、アマゾンは基本的に世界中で同じ仕組みをつかうがゆえに、今回はずれが顕在化してしまっている、と結論できる。

電子書籍や配信では「海外では」という話になることが多い。実際、海外に学ぶべき例は多いと思う。だが、こと出版に関していえば、日本は他国と違いすぎる。そして、その違いに合わせたビジネスの姿が見えてきたところである。もはや日本は「電子書籍先進国」の一つであり、遅れた国ではない。

そうした事情のすり合わせなしにスムーズなビジネスは行えない、というのが、今回、Kindle Unlimitedからさらに明確に見えてきた、と言えそうだ。

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西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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