貧困に喘ぐ人と「支援者」がすれ違う根本理由 困窮者支援のはずが政治的な運動に…

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確かに本連載でもたびたび触れているとおり、貧困の当事者はえてして面倒くさいパーソナリティの人が多く、集団の中で阻害されがちなことが、一層その貧困リスクを高めているのは支援の現場で誰もが感じている事実だし、僕の大嫌いな言葉に「困難ケース」(支援困難事例)というものもある。要するに支援しようにも当事者側のパーソナリティに問題が大きすぎて支援者が対処しづらいケースだ。

僕がこの困難ケースという言葉にイラっとくるのは、その困難とは支援者が当事者を「支援しやすいパターン」に落とし込めないという困難で、この言葉を使った時点で支援者は当事者の「面倒くささ」に敗北した感じを受けるからだ。

こんな思索を深めていると、脳裏に浮かんでくるかつての取材対象者の言葉がある。

「やっぱりね……。ぶっちゃけ言ったらそのね。あたしは……“こっち側”が、楽なんだ~~~って、あの。そう思っちゃったんですよお」

句読点が不自然でやたらと3点リーダー(……)が多いのは、この言葉を発した女性の口調の間延びっぷりを再現した結果。この女性、元家出少女でシングルマザーでキャバ嬢だった春菜さんの第1印象は、「ザッツ天然」だった。

出産前後から彼氏のDVが始まった

3歳離れた兄と2人で実父方の祖母の家(しかもシングルマザーの叔母家族と同居)に預けられるという複雑な環境で育つも、この実兄や同居する従姉妹からの暴力に耐えかねて16歳で家出をしたという春菜さん。家出先は祖母の家に近い地方都市だったが、その家出生活で知り合ったスカウトの男と同棲し、年確(年齢確認)をごまかして潜り込んだデリヘルで働きながら18歳で未婚のまま妊娠出産した。なお、出産前後からスカウトの彼氏のDVがあった。

初めて取材をした段階ではこのDV彼氏とまだ一緒に暮らしていて、21歳で東京近郊の大衆キャバクラに勤めていたが、最も印象が強かったのは、その過酷な生い立ちを感じさせない穏やかな、異常と思えるほど穏やかなパーソナリティだった。

つねにほわっと微笑んでいて、会話のペースは一般人の半分どころか4分の1ぐらい。すこし知的な問題があるのではないかと思ったし、育った祖母の家で兄や従姉妹からいじめを受けたのもこの猛烈な鈍くささが原因なのかと思いきや、mixiの日記にアップされる近況報告は意外にウイットに富んでいて語彙も豊かで、ちょっと辛辣でもあり、天然風なのはキャバ嬢として作った接客パーソナリティなのかと疑ってしまうような、春名さんはそんな子だった。

そんな春名さんから冒頭の「こっち側が楽なんだ~」発言を受けたのは、初回取材から3年後のこと。相も変わらずの天然トーンな口調だったが、実はこの3年間の間に春名さんの人生は激変していた。

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