貧困に喘ぐ人と「支援者」がすれ違う根本理由

困窮者支援のはずが政治的な運動に…

これは取材活動の中でも常々感じてきたことで、たとえば虐待サバイバーの風俗嬢なら虐待サバイバーの風俗嬢の当事者コミュニティが居心地がいい。男の子ならいわゆる言語の延長線上に暴力があるようなアウトローコミュニティが、案外スッとなじめる。たとえそこが裏切りに満ちていたり、被害者になりがちだったり、その後の貧困リスクが非常に高い世界だったとしても、そこで得られるQOLは「そこから正常(?)な世界に向かう」人々のQOLより高いのだ。

実はこのことは、これまで僕自身が著作の中で何度も書いてきた「支援者が当事者とまったく別の方向を見ている」という指摘の実例でもある。

たとえば生育環境に貧困や育児放棄や虐待があって、「避難的」な家出生活から売春の世界に入った少女たち。彼女たちにとって最も受けたくない支援とは、何とか自分の売春という稼ぎで得た自由を奪われ、それまで何度もトラブルを起こし対立してきたかもしれない地元の児童相談所に送致されたり、親元や抜け出してきた児童養護施設などに戻されるという支援だ。彼女らにとって、路上の売春コミュニティという最低で劣悪で危険な環境は、実はそれなりのQOLを彼女たちに与えている。

だが彼女らが「保護補導」された後の支援は、まずほぼすべてが上記のような彼女らのQOLを奪ったうえでの安全だったりする。それはまあ、少女らは逃げるだろうし、地下へ地下へと潜って行くのは当たり前の話なのだ。

潜った結果、将来の貧困や苦しさがあり、そんな彼女らの子どもへの貧困連鎖もまた猛烈な濃度を持つとしても、その場のQOLを奪う支援は支援ではない。そう僕は訴え続けてきた。

そして実は同じことは、現状のあらゆる貧困者・困窮者支援の現場でも言えることだと思う。

「進学支援」は子どものQOLに直結しない

たとえば子どもの貧困がようやく国の問題として考えられるようになって、それではということで「進学支援」が盛んに議論されている。だがそれは当事者の子どものQOLにはまったく直結しない。確かに、受けたいのに教育を受けられないという悲惨はあってはならない。明治以降、女性や農村の子どもにもあまねく教育を広め、世界有数の識字率を誇る日本の方針は、崇高だったと思う。

だが昨今、そもそも大卒者の貧困さえこんなにも多い中で、勉強をすれば貧困の連鎖から抜け出せるというのは幻想だし、むしろ返済義務のある奨学金を過剰に抱えることはリスクでしかない。

返済不要ならいいのかといえば、そうでもない。進学支援で貧困から抜け出そうというのは、そもそも勉強が苦手な子にとっての支援にはならず、救われるのは勉強が得意な子だけ。これは多くの子どもの体を鍛えて「オリンピック選手になってご飯を食べよう!」みたいだ。生まれつき身体が弱くて、選手に育たない子はどうする。彼らにとってそんな支援はQOL以前の問題。必要なのは、足が遅い子も頭の悪い子も、働いて食べられる支援だろう。

こうした当事者と支援者のすれ違いは、本当にあきれるほどどこにでも転がっている。

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