しかも、人間ではまず起こらないことだが、株価にあっては、シークレットブーツを履いている間に、履いている本人の背が伸びるようなことが起こり得る。この場合に、八百長を嫌って「見」(「ケン」。馬券を買わずにレースを見ること)を決め込んで、みすみす当たり馬券を見逃すのは惜しい。
見かけ上のリスクが低下している
日銀のETF買いは、「下がっても、買いが入る」という、なにがしかの安心感につながっていることは確かだ。心理的にも影響の大きな八百長だが、主催者公認であり、ご親切にも、当面止めないことが予告されている。
そして、その他の要因も「見かけ上のリスクが低下する」方向に動いているように見える。
いわゆる「ブレグジット」(英国のEU離脱)は当面深刻な影響をもたらさないらしいことが、分かってきた。何より、英国の株価が元気だ(本当に問題なのは、むしろ欧州の側だが)。
もし米国で「トランプ大統領」が実現したら、一気に不確実性が増大しそうだったが、彼の奇妙な人気は、当面のムードとしてピークを過ぎた。色物タレントが賞味期限切れを起こしたような案配だ。トランプ・リスクも、以前よりも低下した。
原油価格の下落は、発生当初は金融的な不安要因だったが、急激に起こる問題がないとすれば、少なくとも日本経済にとって、時間の経過と共にプラスだ。
ここで、円高のリスクさえ押さえ込めるなら(日銀の今後の対応にかかっているが)、株式投資家が意識すべきリスクは、少々前よりも明らかに低下している。
ついでに、細かい問題だが、裁定取引の買い残が小さいのも結構なことだ。リスクが低下しているとは、リスクに要求される期待リターンである「リスク・プレミアム」が低下するということであり、株式のあるべき理論価値(ファンダメンタル・バリュー)は上昇するということだ。それは、シークレットブーツを馬鹿にしているうちに、実は使用者の身長が伸びていた、というような状況があり得ることを意味する。
投資のセオリーとしては、需給で無理に動かした価格は、「買い」なり、「売り」なりが止まると元に戻りやすいので、有利な賭けのチャンスは「需給対策の逆を張るチャンスを探すこと」だ。
加えて、もともとマーケットに生きる者は、神聖なる市場価格に、需給で介入しようとする「汚い手」が好きになれまい(筆者も嫌いだ)。しかし、相場でも、ギャンブルでも、張り方を決める時には、「好き嫌い」の要素を除外しなければならない。客観的には、シークレットブーツが好きでなくとも、身長の伸びに賭ける方が有利な時期が来ているのかも知れない、と申し上げておく。
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