浦安市の卵子凍結は、なぜ「34歳まで」なのか 順天堂大学附属浦安病院の責任者に聞く
――今回のプロジェクトで助成される対象は、34歳以下となっています。35歳以上が高齢出産になることは理解していますが、なぜその年齢までに制限したのでしょうか?
これは、医学雑誌ランセットによる2014年のデータですが、ガラス化法で凍結保存した場合、25歳までの卵子であれば3割が出産を望めます。34歳までであれば2割、その後はもっと下がります。これを高いととるか、低いととるかは人それぞれです。この卵子凍結保存についての説明会に参加した方で、「思ったよりも確率が低かったから、凍結せずに自然妊娠できるように、早く結婚しようと思いました」というコメントを残した方もいました。
34歳以下ということを決めた理由のひとつには、妊娠できる年齢には限界があるということを伝える意味もあるんです。別に、35歳以上で妊娠してはいけないということではなくて、卵子を凍結するなら早いほうがいい、妊娠するのも早いほうがいい。「妊娠・出産できる年齢には限界がある」ということを改めて伝える啓蒙啓発活動にもなるのではないかと考えています。子宮筋腫とか子宮内膜症とか、高齢になるにつれて増えるリスクには勝てません。
また、今の段階では、未受精卵子凍結保存についてのデータが少ないというのが実情です。米国生殖医学会(ASRM)は、データがないからまだ慎重にという論調。ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)はイタリアがあるせいか、老化にもメリットがあるという論調が強いです。
世界的にも、まだデータが少ないということならば、次世代のためにも、市の助成を受けてデータを取っていくことも目的のひとつです。
現時点ではデータが少ない
――生殖医療学会は、凍結卵子の使用は44歳までと年齢を限定して認めている一方、日本産科婦人科学会は未受精卵子の凍結保存には慎重な姿勢を崩していません。認めているのは、がんの患者さんだけ。現時点ではデータが少ない、ということも理由のひとつでしょうか。
それと、健康な女性に卵子誘発をさせて採卵するのは危険ではないかという意見もあります。ただ、40歳を過ぎて体外受精をする場合、若い時に保存していた卵子を使ったほうが妊娠する確率は高くなるし、侵襲(生体を傷つけること、生体に負担をかけること)が低く、コストも安くなるという論文が出ているんです。現在、40歳を過ぎて1割もない確率で10回も20回も体外受精をやっている人がたくさんいます。そこまで考えたら、健康な時に採卵して凍結しておくことを大事だと考える人もいると思うんです。
――その一方で、40代半ば以降は急激に出産のリスクが上がります。生殖医療学会では、2013年に「40歳までに採卵・凍結した卵子で、45歳になる前までに使用するのであれば」という条件に触れました。
僕自身は40歳までの採卵では、遅いと思っています。どんどん確率が下がってしまうので。それで、浦安市では34歳以下としました。ただ、45歳になる前までというところは一致していて、浦安市の助成も44歳までに使用することという条件にしてあります。一方の体外受精は、年齢制限がまったくないというのも変な話ですけどね。
卵子を凍結保存していくことによって、高齢出産する人が増えるかどうかはわかりません。凍結卵子を早く使いたいと思う人もいるだろうし。そこはこれからデータを重ねていきたいと思っています。
(撮影:今井康一)
(後編に続く)
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