浦安市の卵子凍結は、なぜ「34歳まで」なのか 順天堂大学附属浦安病院の責任者に聞く

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――そうなのですね。日本では、不妊治療の体外受精時に凍結するのは卵子と精子を受精させた後の受精卵になりますよね。これに対して、未受精卵子は皮が薄いこともあって、凍結に向かないという話もありました。

それは、昔よく使われていた「緩慢凍結法」の話ですね。凍結卵子を使用する際にどれくらい生存しているかという生存率が、受精卵と比べてかなり低かったのです。それが、新しい「ガラス化法」という凍結技術が採用されるようになってからは、その確率は変わらなくなりました。未受精卵子であっても、ほぼ100%の生存率が期待できるようになったため、がん患者さんをはじめ、将来に備えるということが可能になったのです。

菊地盤医師の資料より
 

受精卵と比べて生存率の割合が少し低くなるのは、受精しない、または受精後の分裂が不良であるなど、分裂していく過程でダメになってしまう卵子があるからです。

未受精卵子は分裂する前の段階で凍結します。ただ、分裂停止や受精障害の過程でダメになる卵が出てくる割合は、凍結していない卵子とあまり変わりません。

40歳を過ぎてからの不妊治療では妊娠できる確率が低い

日本は、不妊治療への助成があるといっても少額で、所得制限もつけている。手厚いとは言えない。

――不妊治療については、国も少し助成をしていますが、将来に備えて卵子凍結保存をする際の負担額を助成するというのは、この浦安市のプロジェクトが初めてだと聞きました。

日本は不妊治療が保険適用外なので、ビジネスとして扱われている印象です。米国も保険がない国なので、日本と同等以上でしょう。でも、欧州は違う。社会保障が手厚い国の場合、不妊治療にも保険が適用になったり、公費で助成されたりします。ただし、皆さんからの税金を使うわけですから、費用対効果を考えて35歳以下などと年齢制限をする。フランスは37歳、韓国は39歳までだと聞いています。若いほうが妊娠率は高いということは明確なのだから、当たり前のことです。

日本は、不妊治療への助成があるといっても少額で、所得制限もつけている。手厚いとは言えません。その代わり、助成の年齢制限は今年からようやく始まりましたが、42歳(まで)とかなり高齢です。世帯あたり730万円までという所得制限があるので、共働きの夫婦には該当しない場合も少なくないでしょう。結局、年齢が高くなって、おカネができてから不妊治療をする傾向があるのですが、その時にはすでに手遅れだという現実もあります。

ただ、おカネを払ってでもわずかな成功率に賭けたい人たちがいる以上、これは仕方がないことです。やりたいという人がいるのですから。だから、成功率は1割にも満たないのに、何回も不妊治療を行うことになる。そして1割の人が成功すると「40歳すぎで妊娠」とマスコミが報道する。40歳でも妊娠して出産できるんだと、多くの人が思ってしまう。体外受精を実施するための年齢制限はないですし、日本には生殖医療についての法律もないのです。結果的に、不妊治療を実施している回数が世界でいちばん多いのが日本、という現状を作り出しています。

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