常見:そこは相当怪しいですね。本来、経営者が考えるべきは、次の産業・社会を展望し、そこでいかに価値を高めるかです。「働き方」の議論ばかりしている経営者がいるとすれば、よほど未熟か、経営戦略がないか、市場環境が厳しいかでしょう。
確かに企業の業績を上げるにはコスト削減とバリューアップが必要ですが、人間に対するコスト削減は後々効いてくる。開発力や営業力がガタ落ちになって、新商品を生み出せないということがあちこちで起きています。
この20年間で、気づけば日本企業の強みが失われていったように思います。それは、グローバル競争で負けた云々という単純な話ではなくて、気づけば強みを手放してきたのではないかと。
最近、私は名経営者と言われる人を疑うことにしているんですよ。最近出てきた人っていうのは、「それは株価を上げた人でしょう」と。「新たなバリュー」を生み出したかどうかは怪しいです。
私は昭和の名経営者と言われた人は、社会に対する責任ということを一様に意識していたんですね。それは昭和だからだろ、後づけだろと言われるとそれまでですし、建前かもしれませんが。むしろ大企業の方が、理念は残っているのではないかと思う瞬間があります。顧客や社会と共に栄えるためにはどうすればいいのか、と。
4年前に『僕たちはガンダムのジムである』という本を書きましたが、世の中は99%の普通の人で動いている。それが日本の強みです。だから、「多様な働き方」というより、普通の人が安心して働ける「普通の働き方」を創り直さなくてはいけない。普通に働く幸せを大事にしなければいけないと思うんです。
神津:昔の経営者は、従業員を「どういうキャリアを積ませるか」を頭におきながら育てようとしていた。今もそういう経営者はいますが、全体で見ると、即戦力を重視し、長期的な人材育成を放棄したかのような会社が増えてきましたね。
ブラックバイトに居場所を見つける大学生
常見:若者がブラックなバイトにハマってしまうという現実も他方であって。僕は学生たちに、「ブラックバイトになぜハマるのか」という調査をしたんです。申し訳ないけれども、まあ経済的にも厳しい方が多くて。今まで大学に行かなかった層が進学をしており、学生が週5日アルバイトをしないと経済的に回らない。実際に仕送りも減っていると。大学生協の調べでは、20年前、10万円以上仕送りをもらっていた下宿生は6割いたのに、今は3割です。
神津:なるほど。
山本:授業料は上がっていますもんね。
常見:はい。例えば、もう10年以上前くらいから、日清と生協が共同開発したカップヌードルが出たのです。コープヌードルというんですよ。
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