日本人を追い込む「使い潰し経営」にモノ申す 労働者は権利を意識して互いに手をつなげ

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常見:そういうことができる、かっこよくて優しい連合であってほしいと思います。だけどやっぱり、未だにヘルメットを被って自分の権利ばかりを主張する、大企業の人がほえているというふうに思われてしまっている。拳はあげるべきなんですよ。私は未だに資本家は労働者の敵だといったん思うことにしています。それは結局、懐柔するためにやっているということと、「しょせん手なずけるためでしょ」と思っていて。

ただ、私はそれくらいの緊張感のほうがいいと思うんですよね。世の中はやっぱり庶民で動いているというのが私の思いです。市民はバカじゃないと思っているんですよ。いや、本当に日本の市民って実は言いたいことがあって、言える機会を待っているだけだというふうに思っていて。働く人たちは、実は言いたいことがたくさんあって、言える機会を待ち望んでいる。

若者や女性のトークイベントはもちろん、「労働」をテーマにした文化の祭典を企画すれば、モノ言う機会、つながる機会になるんじゃないでしょうか。最近は「労働」をテーマにしたバンドもあるので、連合主催のロックフェスなんかもいいですよね。その活動を知ると、本当に「カッコ良くて、優しくて、頼れる連合」だと思うんです。その存在をもっとアピールしてほしいですね。

同じ職場でも働く人たちが手をつなげない社会

山本:そのために、日本の「職場」が取り戻すべきことは? 

連合には、労働者の声を代弁し、そのための政策を考え、実現してほしい

常見:労使関係の緊張感です。僕の座右の銘は、「片手で握手して片手で殴り合うのが、仕事である」。優れた経営者がいても、労働者がいないと事業は実現できない。労働が価値を生み出す。一方で、会社というステージがあるから、労働者は頑張れる。それを前提に緊張感ある労使関係をどう築いていくか。

いちばんの問題は、この20年で、同じ職場でも働く人たちが手をつなげない社会になってしまったことです。だから、連合には、労働者が手をつなぎやすい社会になるように動いてほしい。労働組合に対しては、御用組合だとか、既得権を守っているだけとかという批判もされてきました。ただ、労働者がこれだけ弱い立場にある社会においては、人々が労使関係を意識するためにも、労働組合の存在は重要です。

神津:労働組合とは、まさに労働者が手をつなぐためのもの。労働組合をつくろう、労働組合に入ろうという働きかけはもっともっと強めていきたいと思いますが、そのためにも、まず必要なのは、「ここが問題なんだ」という認識をみんなでどれだけ共有できるか。

常見:おっしゃるように、たとえ「労働組合」という名前ではなくても、働く人たちが「労働者の権利」を意識して手をつなぐことが大事だと思います。最近は、企業別の組合だけでなく、その枠組みを超えた労働組合も活動していますよね。ブラック労働に対する異議申し立てを通して、「労働者の立場は弱い」ということ、そして「手をつなげば、強くなれる」ということが可視化されていく。

労働問題が顕在化し、僕はもはや「労働警察」をつくるべきだと本気で思うのですが、オピニオンリーダーは、やはり労組であるべきだと思っています。連合には、労働者の声を代弁し、そのための政策を考え、実現してほしい。

神津:「連帯」していくことから、第一歩は始まる、労働者・生活者が、もう一度、手をつなげる社会にしていくために連合運動をもっと広げたいと思います。

「働き方改革」「一億総活躍」が国家レベルの、最優先すべき取り組み事項となっている。しかし、その見直しの方向は常に監視しなくてはならないのだ。自分たちの職場の劣化に歯止めをかけるべく、できることを考えよう。
【開催決定】筆者と育児・教育ジャーナリストのおおた としまさ氏によるトークイベント「俺たちの働き方改革ナイト」が9月8日にB&B(東京都世田谷区)で開催されます。

 

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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