『ハゲタカ』の監督、管理社会へ警鐘鳴らす 大友啓史監督に聞く(上)

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管理されることの良し悪しをもう一回考えよ

だからこそ、人格は1かゼロかでは判断できない。0.236が神楽で、0.764がリュウと、使い分けによって人格も変わる。0.623が神楽、0.377がリュウ、といった感じで、外に現れる見え方も変わる。その小数点以下のディテールを失うと、いろんなことを見失ってしまうように感じた。東野さんの原作を読んだとき、その点がうわっと頭の中で駆け巡った。

大友啓史(おおとも・けいし)
1966年岩手県生まれ。90年慶応大学法学部を卒業後、NHKに入局。秋田放送局を経て、97年から2年間ロスアンゼルスに留学し、ハリウッドの脚本・映像手法を学ぶ。帰国後、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズや、『ハゲタカ』『白州次郎』『龍馬伝』などの演出を手掛ける。2009年『ハゲタカ』で映画デビュー。11年にNHKを退職。映画監督作品はほかに『るろうに剣心』(12年)。

僕自身、組織を辞めてフリーになったことも『プラチナデータ』を監督するきっかけになった。組織に管理される立場ではなくなって、初めて気づくことも多い。確かに会社に管理されているほうが楽な部分もある。一方で、失っていくことも多い。税金だって、サラリーマンは何も意識せずに天引きされているけど、そうすると税に対する知識や意識がどんどん薄くなってしまう。しかし、自分で細々と確定申告していると、税金に対する知識がどんどん身についていきますから。

『プラチナデータ』はまさに二宮和也というアイドル、東野圭吾という国民的作家のベストセラーを窓口にして、楽で便利かもしれないけど、いつの間にか管理されていくことの良しあしを、もう一回考えるに値するのではないかと思って引き受けた。ひたすら「利便性」を求めていく世間の裏で、われわれが知らないうちに誰かによって「自分の人生」が操作されていてもおかしくないよということを、皆で考えるにはふさわしい題材だと思っています。

そんなことを考えるのも、ジャーナリスティックな教育を受けてきた側面があるかもしれない。NHK時代は、ドラマを作っているというより、ちょっと違う意識が強くあった。単にエンターテインメントを作るだけではすまないというか、テーマ性を重視していたというか。公共放送という立場で、大切な問題を多くの人に届けるにはどうしたらいいか、ということ。今は、よりエンターテイメントの配分を強めていきたいと思っている。

(C)2013「プラチナデータ」製作委員会
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