宇宙で"ノー残業"、星出飛行士の段取り術 器用じゃなくても、重大ミッションを大量にこなす

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宇宙出張中、日々の仕事の中では疲れていないと思っても、金曜日には一週間分の疲れが蓄積すると感じたこともあった。万一、緊急事態が起こった場合に備えて、対処できる余力は残さないといけない。

だから第1回目の船外活動が終わったとき、トラブルの原因や対策が気になったものの、次の船外活動に備えて重要視したのは「身体を休める」こと、そして宇宙服のメンテナンスだったという。

船外活動の準備など、まずは自分にしかできないこと、自己管理を優先することが重要
(出典:JAXA/NASA)

バッテリーを再充電し、二酸化炭素の除去装置を再度使えるように準備する。それらはISSにいる自分たちにしかできないことだし、次の船外活動を安全に行う、つまり命を守るためにも必要な準備だった。

星出飛行士は宇宙飛行士に3回挑戦し、3度目でやっと夢を掴んだ人である。1回目の挑戦の後、NASDAに入社しエンジニアとしてロケットの開発に関わり、宇宙飛行士の技術支援を担当、「きぼう」実験棟開発も間近で見ていた。これら全ての”裏方”としての経験が、宇宙飛行に生かされている。

星出が打ち上げの時に有志の仲間たちが作ったTシャツには、親しみをこめて宇宙服を着たおさるが描かれていた。「宇宙飛行士というよりは仲間。もっとも親しみやすい宇宙飛行士」と関連メーカー関係者との間も近い。

宇宙飛行士になる前から星出をよく知る関係者は、「同時にたくさんのことをやる器用さはないけれど、事前にやるべきこと、順番を整理したうえで、結果としてたくさんのミッションを達成していくタイプ」と評する。

器用な人という印象を持っていただけに意外な気がした。だが自分が器用ではないと自覚しているからこそ、準備を念入りにし、確実に1つひとつの仕事をこなした。そして結果的に、”残業なし”で多くの仕事を成功に導くことができたと言えるのではないだろうか。(=敬称略=)

林 公代 宇宙ライター

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はやし きみよ / Kimiyo Hayashi

宇宙ライター。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経て2000年からフリーに。20年以上にわたり宇宙飛行士や宇宙関係者へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げや宇宙関連施設、皆既日食などの取材を続ける。著書に「宇宙飛行士の育て方」(日本経済新聞出版社)、「宇宙就職案内」(筑摩書房)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡宇宙飛行士らと共著、毎日新聞社)、「宇宙の歩き方」(ランダムハウス講談社)など多数。http://gravity-zero.jimdo.com/

 

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