無風どころか「ブーイングの嵐」襲来前夜

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無風どころか「ブーイングの嵐」襲来前夜

塩田潮

 風が止まった。
 道路特定財源の10年延長を盛り込んだ道路整備費財源特例法改正案が5月13日に衆議院で再議決された後、国会は奇妙な無風状態にある。与野党激突の後の小休止政局だが、もう一つ、自民党が企てた秘密作戦が頓挫したのも大きい。

 福田首相は4月9日の党首討論を機に対決型に転じたが、その裏で自民党は密かに「人さらい作戦」を計画した。参議院は与党系が106人(自民83・公明21・無所属2)で、過半数に16人、不足している。大連立が不可能なら20人程度の参議院議員を取り込む小連立でねじれ解消を、ともくろんだ。

 狙いをつけたのは、ちょうど20人前後といわれた特定財源維持論者の民主党議員で、主戦場は5月12日の参議院での採決のはずだった。ここで約20人が造反し、野党を離脱して新党を結成すれば、そこで内閣改造を行い、新党と連立を組んで大臣の椅子も割り振るという筋書きを考えた。だが、「大量造反なし」と見た民主党はこの法案では参議院での不採決による「みなし否決」の道を選ばず、議決に応じた。ふたを開けると、造反者は2人止まり(他に欠席1人)で、自民党の人さらい作戦は不発に終わった。

 民主党は国会審議を通じて福田政権を追い詰めていく構えだが、手詰まり感が強い。一方、不人気の福田首相も波風を立てずに早く国会を終わらせたいようで、会期延長も見送る気配だ。自民党内に交代論も高まっていないから、無風に乗じて逃げ切る算段なのだろう。だが、閉塞政治打破の展望も力量も挑戦意欲も欠いた首相に対する国民の不満と失望は沸点に近づいている。無風どころか、ブーイングの嵐という大型台風の襲来前夜だ。
 逃げ切りではなく、ねじれ下の合意形成と政策決定の新しいシステムづくりに果敢に挑むべきではないか。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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