マルエツ社長が断言、「個人消費は悪くない」 最高級「A5和牛」がスーパーで売れているワケ

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――なぜ価格が高めでも売れるのでしょうか。

牛肉部門で最も伸びている、最高級A5ランクの霜降り和牛(撮影:今井康一)

牽引しているのはシニア層だ。足元では、将来不安から節約志向にシフトしているシニアもいるが、それはごく一部。量は食べなくても品質にこだわりがある人は多い。首都圏でリタイアされた人は、退職金も多く、資産に余力があると思う。

また首都圏では、増税負担を打ち消すぐらいに、世帯収入が増えているのではないか。2013年度下期ぐらいから雇用環境がよくなっている。就職事情がよくなり、働き手の絶対数が増えると、世帯トータルで使えるおカネが増える。パートタイマーの時間給も人手不足で上がってきている。消費に回す余裕が出る中で、食品に対する消費支出が増えているようだ。われわれ小売業にとって、人の採用が難しくなることは深刻な問題だが、違った切り口で見ると、景気が良くなっているということだ。

――客数はどうですか。

客数の伸び率はやや弱まっている。お客さん1人当たりの来店頻度は落ちているようだ。ただし、われわれは客数よりも、月間の1人当たり総販売点数を重視している。1回の買い物で5点買っていた人の来店頻度が半分に減っても、1回当たり10点買い上げてもらえれば、総販売点数は落ちない。実際、今は来店頻度が減っても、総販売点数は落ちていない。

伸び率2位は最も安い「味付け牛」

――価値志向ばかりでは、離れてしまう客もいませんか。

もちろん価値志向の一辺倒ではダメだ。価格と価値のバランスが重要だ。先ほどの牛肉部門で言うと、1番の高級和牛に続いて2番目に伸びているのは、価格の最も安い「味付け牛」だ。ヤングファミリー層が節約志向であることは間違いない。われわれは商品の価格の幅を広く取ることで、お客さんに多様な選択肢を提供している。

――今後強化していく分野はどこでしょうか。

中長期で総菜・デリカ部門を強化していきたい。最近はどのスーパーもデリカが伸びていて、調理せずにすぐに食べたい需要が多いことがわかる。一方で、生鮮食品の需要も強い。「クックパッド」などの料理レシピサイトの利用者が増えているのは、家で一手間かけてでも料理をする人が多いからだろう。通常なら、総菜・デリカと生鮮は相容れないが、今はどちらも伸びている。

たくさんの種類のトマトをそろえるなど、生鮮食品に力を入れる(撮影:今井康一)

われわれも生鮮にはこだわっている。キーワードの一つがローカルだ。販売地と生産地をいかに近づけるかに挑戦している。鮮度の訴求を大事にしているからだ。今後は小売業が生産地にもっと近づくことが重要になるだろう。

こうした生鮮や総菜・デリカを強化することは、原点回帰でもあり、コンビニとの差別化にもなる。最近は首都圏スーパー同士が切磋琢磨する中で、それぞれの陳列法や接客、品ぞろえのレベルアップが進んだ。今後も個店個店の強さを磨いていきたい。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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